いまさらキミに言わなくてもいい言葉かもしれない。
でも、私に言わせて欲しいんだ。
いつも屈託のない笑顔でキミが言ってくれる、あの言葉を。


唯湖さん好きすぎてついつい言葉が出てくるんです曲SS『愛唄』 music by GREEEN

 「なぁ理樹君」
「ん?なに、唯湖さん」
「ぐはっ」
相変わらず名前で呼ばれることに慣れていない唯湖が、理樹の無意識の反撃で吐血する。
「わわっ、大丈夫?」
「大丈夫だ。吐血というのは作者の表現であって、実際に血は吐いていない」
「???」
「世の中には知らないほうが幸せと言うこともあるんだよ、少年」
ニヤリと笑う唯湖に理樹はさらにはてなマークを浮かべる。
 こうやって放送室で過ごすようになって理樹は思う。
神様というのは確かにこの世にいて、二人の為にこの箱庭…エデンを用意してくれた。
だからこそこの世界にあって誰にも邪魔されず、二人の時間をまったりと過ごせる。
感謝してもし足りない。出会わせてくれてありがとう。なにより。
「唯湖さん」
「…なんだ」
赤面しながらうつむく彼女に、優しくささやく。
「出会ってくれてありがとう。そばにいてくれてありがとう。それだけが言いたかったんだ。どうしても」
「…」
さらに赤面する。今なら薬缶で湯でも沸かせそうな勢いだ。
「何を、当たり前のことを…改まって言われると照れるじゃないか」
「うん。でも、感謝は口にしなきゃ伝わらないから」
「黙っていても伝わる感謝はあるんだぞ…?」
このままじゃおねーさん、憤死しちゃいそうだぞ…とさらりと怖いことを仰る姉御。
理樹の言葉はまんざらじゃないみたいだが、いつも言われてばかりでいいのか、と唯湖は思う。
だけど、口下手で冗談をささやくのは上手でも、相手に愛を謡うのは苦手。
だから理樹がうらやましい。好きだと屈託なく言えるその優しさが。
「理樹君」
「ん?」
「今この瞬間から愛してる禁止って言ったらキミはどうする?」
「…」
唐突に何を言い出すかと思えばこれだ。
しかし今の理樹にはそれが重大な問題らしい。
「困るよそんなの…僕の想いを伝えるのにそれ以外手段思いつかないよ」
「理樹君」
そんな理樹に教え諭す唯湖。
「愛してる、なんて安易な言葉だけで引き止められるほど、人の心は優しくない」
「…」
「時々は突き放したり、言葉に出来ない優しさも大切だぞ?愛情とはそういうものだ」
「…うん」
唯湖は思うのだ。
理樹は失いたくないから言葉で引き止めているんじゃないか、と。
もっと触れて欲しい。抱きしめて欲しい。
幸せになろうと、誓った人だから。
「だが私から言うのは勝手だからな。愛してるぞ、理樹君」
「…っ!」
これこれ、この反応。
案外言うほうは言われることに免疫が付いていないことが多々ある。
普段の意趣返し、成功といったところか。


 「しかし理樹君。キミは語彙を鍛えるべきだな。愛してるだけが伝える手段じゃないぞ」
「…分かってるけどさ。僕はそれ以外思いつかないんだ。大切な人だから。僕が生きる意味だから」
「…」
ここまで想わせて悪い気はしない。
だけど今までそんな感情を抱いたことがなかった彼女だから、どう接していいのかが分からない。
怖い、といったらそこまでだろう。でも実際に分からないのだ。
「私はそういう時、どんな言葉を返せばいい」
「そうだなぁ…」
こんな一見馬鹿馬鹿しい質問にもちゃんと付き合ってくれる。そして答をくれる。
「素直に気持ちを言葉にして伝えればいいと思うよ?」
「愛してる、と言うのか?」
「…うん。そしたら、僕がご褒美のキスをするから」
「…恥ずかしいことを言っている自覚を持ったほうがいいぞ」
変な方向に強くなっている理樹が時々心配になる。ともあれ、実践することにした唯湖。
「…愛してるぞ」
「…くすっ」
「馬鹿にしたのか貴様八つ裂きにするぞ」
「違うよ。唯湖さんの言い方がすごく初々しくてさ。ますます好きになりそうだよ」
「あべしっ」
最早防衛線は陥落寸前。今すぐ押し倒したい衝動に駆られるが、何とか堪える。
そして今一度理樹に向き直ったとき。理樹が窓の外を見ながら言う。
「でもさ、唯湖さんが選んだ人が僕でよかったのかな、なんて心配になるときもあるんだ」
「…どうしてだ」
寂しそうな目でうつむき、また外の紅葉した木々を見ながら、寂しそうに呟く。
「唯湖さんなら、選び放題だと思うんだ。それなのに、僕でよかったのかな。なんて。僕は嬉しいけどね」
「キミが嬉しいのなら私も幸せだ。何より愛する人を選んで何が悪い。愛してるからそばにいるだけだ」
屈託のない、子どものような理由。
今の二人には、それが心地よい距離(ディスタンス)。
だから、理樹は唯湖を力強く抱きしめる。
「いっぱい笑って、泣いて、怒って。そんな日々にずっとそばにいれたこと。それが嬉しいんだ」
「他の人が知らない唯湖さんをいっぱい知ってる。だから、これからも一緒にいたい」
「…もう私の生きる理由がキミになってきたよ。次第に。あぁもう好きにしてくれ…」
こんなに率直に愛をささやかれるともう諦めてこの人に抱きしめられていよう。
秋の風が二人の頬を掠めるとき、始業5分前のチャイムが鳴った。


 これからも気持ちは変わらないと思う。
命を救ってくれた人。闇の底から救ってくれた人。
本当ならこっちが感謝したいのに、キミはいつも私に感謝してくれる。
ありがとう。愛してる。
だから、私も、笑顔で応えたいんだ。
だけど、今はまだ少し慣れないところもあるから。
もう少し、待っててくれないか。
私は誓うよ。キミに誰よりも素敵な笑顔で応えられる人を目指す。
勝てない戦いはどうもキライだからな。私はキミの愛してるを正面から受け止めて、勝ってやる。
それが、今の生きる意味なのかもな。


 僕も、これからも気持ちは変わらないと思う。
密度の濃い時間を一緒に過ごして、いっぱい笑って、泣いて、思い出を作って。
そして振り向いてくれた君に出来ること。それはこれからもずっと一緒にいることだから。
でもこの愛情は幼くて、時々君を傷つけるかもしれない。喧嘩になるかもしれない。
だけど、止まない雨がないように、必ず乗り越えられる日が来るから。
その時には僕の声が続く限り、君の隣で愛を唄うよ。
おじいちゃんになって声が嗄れてきたら、手を握って、安心させるよ。
こんな答じゃ、やっぱり君は満足しないかな。


 あの日の私達は、お互い何も知らなくて、お互い顔見知り程度だった。
だけど、今こうしていろんなことを乗り越えてきて。
今なら素直に言えそうだよ。私が生きてきた時間軸は、きっと君と出会うためにあったんだって。

 この空の下、出会って恋をして。
いつかは悲しい別れを経験するけど、その瞬間まで、僕は君の隣で、愛を唄うよ。
誰よりも大切な、君と、愛を唄うよ。


 乱れた制服を直す。
「授業をサボって性交とは…私も不良になってしまったな」
「数学に出てなかったころから、じゃない?」
「むぅっ」
理樹君のくせに生意気だぞ。そう言いながら理樹をぺしぺしと叩く。
「ははっ。でも、唯湖さん、前より表情豊かになった」
「…君のせいだぞ。感情を知った私は、もう変なことで涙を流すように…っ」
「唯湖さん?」
いや、これは痛いからじゃない。辛いからじゃない。悲しいからじゃない。
きっと、嬉しいからだ。
嬉しくても涙が出る意味を教えてくれたのは、君だぞ、理樹君。
だから、責任、取ってもらうからな。
その想いを胸に、理樹を抱きしめ、そして告げる。
理樹が、誰よりも欲しがっていた言葉を。






「新渡戸も一葉に取って代わられるとは夢にも思わなかったろうよ」
「感動ぶち壊しだよ」

きっと、こんな唯湖は、永遠に変わらないだろう。
見上げた窓の向こうは、高い秋の青空。
今年はどこに行こう。
きっと大丈夫。隣には、下手なナビよりも役に立つ、支えあえる、君がいるから。


----ただ泣いて笑って過ごす日々に 隣に立っていれることで
   僕が生きる意味になって 君に捧ぐ この愛の唄-----


(終わり)


あとがき

な に こ の 小 学 生 の 読 書 感 想 文 み た い な 出 来

絶望のあまり首を吊りそうですが、だって曲が単調でベタな感じのラブソングだからいけないんだ^p^
と曲のせいにするのはプロ意識に欠けますが、一時期流行ったよね。この唄。
でも個人的にはブームが過ぎた今だから思わず書いてみたくなっただけなのだ。うん。

ってことで、ごめんなさい。時流でした。

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