免許を取ったから、意味も無く車庫から車を引きずり出した。
それは、あまりに古臭くて、父母の思い出が詰まっているには違いないのだが、マトモに走るかどうかと問われれば
多少心配な代物。だが学生の身分で車を買うなど大冒険も甚だしい。
だから、俺は黙ってその車のハンドルを握った。エンジンは少し剥げ始めている塗装の割りに快調。
「…嘘みたいだ」
きっと、悪い冗談なのだろう。でも、アクセルはエンジンに燃料を食わせ、確実に回っている。
「…出てみるか」
サイドブレーキを下ろし、クラッチを半分入れ、アクセルをくれてやる。
………エンストした。


謙吾と真人は分かるけど、それになぜか来ヶ谷という妙な組み合わせ曲SS
『BEAUTIFUL DAY』music by Masaharu Fukuyama


 「で、何故貴様が乗っている」
「ん、いいじゃねぇかよ謙吾っち。ちょっとそこまで乗せてくれよ」
「俺の返事も聞かずに乗っている時点で、俺に拒否権はないんだろう?」
気付けば真人が乗っていた。近くを通りかかったから、ついでに載せてくれという。
ついでにという時点で既にアレなのに、どこに乗せて言って欲しいかって聞くと。
「気の向くままでいいんじゃね?」
この体たらくだ。このまま蹴落としていいのなら、早速それを実行しようと思う。
だが生憎足は2本とも運転という動作に持っていかれていて、このバカを攻撃する余裕は無い。
「早く走れよ」
「五月蝿い。言われんでもそうするつもりだ」
そして相変わらず身勝手なヤツだ。きっと年老いて死ぬまで、こいつとは分かり合えないだろう。たぶん。
しかし、ロクに使っていない車だ。ガソリンもあまり入っていないし、エンジンはたちまち音が怪しくなる。
「よく走るなこのオンボロ」
「貴様、俺の父母に対する挑戦と受け止めていいのか?」
「いや、そういうつもりじゃねーけどよ、このまんまじゃ遊びに行く前に一日終わっちまうぜ」
「ならお前がなんとかしたらどうだ」
現に俺は、車のメンテナンスは詳しく知らない。何故だろうか。裁縫は誰にも、女性陣にも負けないつもりなのに。
「それならオイル交換がいいぞ」
「ん」
「あぁ?」
ふと横を見ると。
ノースリーブの上から黒のジャケットを羽織り、ジーンズに隠れた長い脚が美しい、黒髪の女性がいた。
…しかしよくよく見ると見覚えがありすぎる。
「来ヶ谷か」
「うむ。来ヶ谷ちゃんだ。それにしてもケンメリか。謙吾少年もそこそこいい趣味をしていると見える」
俺の車ではないんだがな。
来ヶ谷の中では俺は既にレトロなモノ好きの称号でもついているのだろう。
「しかし確かにエンジンの音が少しおかしいな。どれ」
と、後部座席に乗ってくる来ヶ谷。
「何している」
「固いことを言うな少年。それとも何か、私に歩いて最寄のスタンドまで案内しろと言うのか?」
そんなこと口が裂けても言えるか。後が怖い。
「来ヶ谷ならこの車より速いんじゃね?」
あぁ、真人。お前はいつだってそうだ。空気が読めない割に他人の精神領域にズカズカと上がりこんでくる。
お節介なのか、ただのバカなのか。俺としては後者を強く推したいところだ。
隣の席で後ろから断罪される真人を見ながら、ふとそんな風に思っている俺も、大概毒されている気がしないでもないが。

 「美味いぞ」
ポンッ。投げられたリンゴは来ヶ谷が一口齧っていた。
「あぁ」
その反対側を齧り、真人に投げる。
真人はその大きなリンゴを芯ごと噛み砕く。
「はっはっは。真人少年は相変わらずロマンチシズムの欠片も無い食べ方をするな」
「ありがとよ」
ここに理樹がいたら、きっとこのバカに痛烈なツッコミをしてくれたに違いないのに。
俺にはそんな元気もなければ、理樹のポジションを奪えるなんて思っていない。
俺たちにとってのツッコミは、いつだって理樹なんだから。
「しかし時間掛かるな」
「こんな小さい街でケンメリのオイルエレメントがあっただけ奇跡と思ったほうがいい。まぁここのオーナーもそこそこ物好きみたいだからな」
そんなにレアとは思っていなかったが、今ではパーツも絶版。道理で普通のスタンドでは見つからないわけだ。
「でも来ヶ谷もいい店を知っているな」
「ん。まぁな。ここのオーナーとはバイク仲間なんだ」
「バイクか…」
俺はふと、ハーレーに跨るライダースーツ姿の来ヶ谷を想像して。
「人馬一体」
「何を言っている」
思ったとおりのことを口にしてしまっていた。
「そういや来ヶ谷って今何してんだ?」
真人の質問。俺もそれを知りたいところだった。まさか学生でバイクを転がしているなんてあり得ないだろう。
いや、それがスクーターとかビッグスクーターとか中型なら分からなくもないが…。
「3駅先にある大学に通っているピチピチな女子大生さんだ。さぁ崇めるがいい」
「「金あるヤツはいいなぁ」」
む、見事に真人とハモったぞ。
「そういう謙吾少年と筋肉バカはナニをしてやがるんだ?おねーさんが聞いてやろう」
俺は言わずもがな。体育大学に通っている。将来は剣道で強い青少年を育成したいと思っている。
もっとも、親父の道場など継ぐつもりは毛頭ないが。
そして真人は。
「肉だよ」
「ん、肉屋で働いているのか?」
「違う。働くのがイヤだから肉、あー。ほら。ミートだよミート」
「…相変わらずの筋肉バカだったな」
「ありがとよ」
誰も褒めていないぞ、ニートなんか。
「皆それぞれの道を確かに進んでいるな。ガラにも無くおねーさん安心したぞ」
「お前に安心されたくねーけどな」
「相変わらず釣れない男だ。嫌われるぞ」
安心しろ、既に俺が嫌っているからな。
そんなことを言っているうちに、車が無事に仕上がったとオーナーが入ってくる。代金は来ヶ谷の友人ということで格安。
「こんな上玉のケンメリは久々に見たぞ、今度またじっくり見せてくれよ。茶くらいは淹れてやるからさ」
50歳になるかならないかくらいの、色黒の男が微笑んでそう言った。
「来ヶ谷のバイク仲間って、オッサンが多いんだな」
正直すぎる真人も真人だが。
ともあれ、エンジンは息を吹き返し、ゴキゲンな音を周囲に撒き散らしながら走り始める。
手を振るオーナー。来ヶ谷が代わりに手を振ってくれた。
「で、どこに行くんだ?」
「…さぁ」
「何も考えずに運転していたのか。相変わらず理樹君以外の野郎どもは度し難い」
酷い言われようだ。
「…海」
「え」
「海に行こう。そこら辺の海岸じゃなくて、伊豆あたりの海まで」
「しかしオフの海なんて何もないだろう。行く価値はあるのかね?」
「…」
行きたい場所に、価値なんか求める意味が無い。
「俺たちは、俺たちの行きたい方向に進むんだ。人生も、車も。それでいいじゃないか」
「…謙吾少年にしてはいい事を言う。成長したな、少年」
ふと、ルームミラーに映る彼女の目が、安堵なのか寂しさなのかよく分からない色に染まった。そんな気がした。


 車は箱根ターンパイクを越え、国道135号線をひたすら南へ走る。
真人はいつもこの手のイベントでは寝るくせに、今日はやけに目がさえている。
来ヶ谷は景色を見ながらも、そこそこに話を振ってくれるから助かる。俺と真人だけではきっと険悪なだけだろうから。
「しかし、この風景…」
そう、この風景。
山は嫌いだ。
いつかのように転落したセカイで、俺は無力だったから。
「謙吾少年?」
「…」
何個目かのカーブを越える頃、俺は、語る必要もないのに語り始めていた。
「目覚めたとき、古式なんて女生徒はいない、少し前に自殺した、と聞かされた」
古式は別のクラスだったから、事故には巻き込まれていない。
「俺は死の淵から戻ったぞ!と勇気付けてやろうと思ったのに、結局俺は彼女を救えなかった」
「…それを言えば、私だってそうだ」
「来ヶ谷」
慰めなど要らない。風に乗せたその声より早く、彼女が言葉を紡ぐ。
「いや、私だけではない。ここにいる全ての共犯者ども。結果は良かったとしても」
理樹君と鈴君に嘘をつき、追い詰め、壊れるまでにしてしまった。
来ヶ谷が言うとおりで、結果が良かったから救われたが、俺たちは理樹と鈴を強くするために、取り返しの付かなくなるかも知れないことを、
平然と行ってきた。
「だから、キミ一人がそれを背負って苦しむ必要はない。あのセカイで起こったことは、1人だけの責任ではない」
そうだろう、共犯筋肉?
ニヒルな笑みを浮かべた来ヶ谷に、助手席の筋肉バカは『あぁ』と間の抜けた笑みと声で答える。
「オレは古式ってヤツに会ったことはないし、話したことも無い。謙吾が話しているのを遠くから見たくらいだ」
「言うな」
もういい、コイツに言われれば、何か負けた気がしないでもない。
だがヤツは続ける。
「でも忘れないヤローがいるだけ、その女は救われてるぜ。だからいつまでもバカヤロウを貫けよ、謙吾の先生様よ」
「…」
コイツは、嘘はヘタだし、言葉だってバカだから荒削りなことしか言えないと分かっているんだ。
だけど、それは俺も同じこと。バカだから、返す言葉も荒削りなんだ。あのセカイから生還しても、天邪鬼は相変わらずか。
「なら、俺や理樹や来ヶ谷が死んだ後でも、絶対俺たちを忘れるなよ、大バカヤロウ」
「へっ」
顔を見合わせて笑った。直後のカーブで死にそうになったが。

 「しかし辛気臭い話だな。死ぬとか死んだとか」
「来ヶ谷」
誰だってそんな話をしたくはないさ。この話はもう終わり。そう伝えると彼女は。
「で、海に行くにしてもその装いでは少しアホではないか?」
「あァ?」
言われて見ればそうだ。
俺はもはや俺のポリシーを越え、ジャスティスになりつつある剣道着。そして草履。
真人はいつもの一張羅のジーパンと赤いTシャツ。いい加減その赤が暑苦しいからなんとかしてくれ。
しかもなぜか胸のところに筋肉と見事な楷書体で付け加えられている。
「上野のアメ横で売ってたから買ってみたんだよ。謙吾っちのリトルバスターズジャンパーに対抗してみたぜ」
対抗というより退行だそれでは。
それをうんうんと頷きながら来ヶ谷が言う。
「遊びに行くには当たり前すぎるだろう。どれ、峠を下れば街がある。そこで戦闘服を調達するとしよう。金は私が出す」
「おいおい…」
俺はこの服以外着るつもりはないし、こう言っては角が立ちそうだが、女に金を払わせるなんてマネはしたくないぞ。
「なに。遠慮することは無いさ。キミら二人は今後私からジゴロ少年ズとあだ名されるだけだからな」
謹んで辞退させてもらうことに決める俺だった。


 途中の街で立ち寄ったショップで、俺と真人は来ヶ谷に半ば引き摺られる形で服を選んでいた。
「別に他人の評価は気にしないが、私はピチピチの女学生だぞ?むさくるしい姿の男二人が私を連れていれば」
明らかに誘拐か何かと勘違いされるぞ、はっはっは。
その言葉に多少カチンと来たが、確かにケンメリにこの格好はヘンだ。まぁ某有名アーティストグループのメンバーが、
軽自動車のCMで和装をして不自然な土佐弁で喋っているのに比べれば、車のフォルムも古いし、それっぽく見えるだろう。
第一なんでも坂本龍馬を意識すればいいというものではないだろう。これだから、最近のクリエーターは質が低いと言われるんだ。
「うむ。謙吾少年はコレだ」
「…なんだとぉぉぉっ…!」
不覚。
来ヶ谷が不敵な笑顔で手にしているのは、黒の縁なしサングラスに、赤いアロハシャツと白いデニムのショートパンツ。そしてビーチサンダル。
そのビーチサンダルたるや、使い終わったタイヤを再利用した黒いヤツ。ものづくりの思いは伝わるが、如何せん不恰好でかっこ悪い。
「それにこのラジカセを手に持っていれば、ほらみろ、まさにチョイ悪だ」
あぁ、格好がチョイ悪だな。
「で、真人少年はふんどしで決まりだな」
「ありがとよ」
それを素で受け取る時点でお前は相当毒されているぞ真人!
「これなら真人少年の筋肉を面白いほどに表現できるぞ。おねーさんも鼻高々だ」
「言われてみりゃそうだな…。謙吾みてぇなアロハもいいけど、オレはこっちにするぜ!」
載せられているぞ、真人。
もう何も言うまい。流石に悪いからと、支払いは俺がした。
……何故アロハごときで35800円もするんだ。店を間違えたか。
見てられないとゴールドカードを横から出して『支払いは私が』と言ってくる来ヶ谷のほうが、俺よりも男らしく思えたのはナイショだ。
礼に、俺もサンダルを買ってやる。さっきのタイヤ再利用サンダルのピンクのヤツだ。
真人には、赤のヤツを買ってやる。
「ふむ…私は黒か白がいいんだが」
「たまには淡色も身に付けてみろ。絶対に似合うから」
「…それは口説き文句かね?」
ニヤニヤ。あぁ、来ヶ谷がどんどん悪魔に見えてきた。
ともあれ、俺は服を店員から受け取ると、試着室で着替えてそのまま出ることにした。
…真人はバカ正直にふんどしを着用した後で『こんなの着れるかー!』と声を荒げていたが、返品など効くわけがなく。
暑苦しい真人を隣に乗せて、俺たちは国道135号線をどんどん下っていった。


 「いろいろ忙しくて、慌しくて、見落としていたこともあるな」
「ほう」
キラキラ光る海面が拝めるくらいの道に入ると、俺は思わずつまらないことを声に出していた。
「大学に行ってみて思ったよ。俺は本当に剣道を、体育を生業にしたいのか、と」
「謙吾らしくねぇな」
「あぁ、まったくだ」
「お前ら…」
帰ってくるのは落胆でもなければ、罵る言葉でもない。ただ、俺らしくないという言葉。
「それを言ったら私だってそうだ。入学早々したいことが見つからない。教授すらも打ち負かしてしまったからな」
相変わらず知識ではアグレッシブな女だ。
「そのせいで本気でしたいことも見つからなければ、バカを出来る仲間もいない。何故だろうな。後悔なんて感情は昔々に捨てたはずなのに」
「オレだって」
「お前はいい」
「なんでだよ!」
どうせ筋肉で世界を救おうとしたらそんな仕事はありませんと突っ撥ねられたクチだろ。そういうと。
「謙吾、さてはどこかでオレのこと見てやがったな!?」
いや、思ったとおりのことを口にしただけだが。
「まぁまぁ」
宥める来ヶ谷。
「アレだ。今日はそんな慌しい日常を逃げ出すいいチャンスだと思うことにしよう。感情の嘘偽りはナシだ。昔みたいに、な」
昔なんて言っても、まだそんなに経っていない、最近のことなのに。
来ヶ谷が言うと、なぜか思うんだ。
俺たちは相当昔から知り合いで、こうして遊びに行くことも今日が初めてじゃないなんて。
「大人になって色々忘れてしまって、失ってしまって、自分のペースなんてどこかにすっ飛んでしまっても」
「今日の私たちはどこまでも本当の自由だ。何も考えず、波に身を任せる船のように、この海を楽しもうじゃないか」
磯の香りが、窓を開けている車内に充満してくる。
「季節外れだけど、それがいいんだ」
「ん」
「最初お前が季節外れの海に行く価値があるのか?って聞いただろう。その答えだ」
「…あぁ、そうだな」
ルームミラーに映る来ヶ谷が、珍しく微笑んだ気がした。


 いい感じに寂れた海水浴場とはいえ、別にチェーンも掛かっていないし、普通に入っていける。
駐車場に止めた車にしばしの別れを告げると、ラジカセを小脇に歩き始める。
来ヶ谷も黒のジーンズによく似合う黒のコンバットブーツからさっき買ってやったビーチサンダルに履き替える。
「…ピンクも悪くないな」
「そうだろう」
真人はふんどしを翻しながら走り出して、すっ転んで砂浜の上をのた打ち回っていた。
「潮の香りか」
「あぁ」
風も、波も、雲も、途中で買ったビーチサンダルのかっこ悪さも、ちょうどいいんだ。
何もかもが、奇跡かもしれない、そんな珍しい一日。
肺一杯に吸い込んだ海の風。早く来いよと手を振る暑苦しいふんどし筋肉。どこから出したのか、デジカメで写真を撮り始める来ヶ谷。
「空が蒼いな」
「どこまでも、蒼いな。理樹も見てるだろうか」
「どうだろうな」
砂浜に降り、程よいところに打ち捨てられていた新品のレジャーシートを敷く。オフの海だ、誰がこんなもの気にするものか。
その上に来ヶ谷と二人腰掛ける。砂が舞い上がり、俺たちを襲うが、気にしないのが来ヶ谷と俺の共通点だろう。
「みんなバラバラになったが、未だに俺と真人と来ヶ谷はここにいるな」
「私は今の街が気に入っているのと、実家に帰りたくないだけだ。元々実家があるキミらとは違うぞ」
「だがだからこそ今でも同じ場所にいるんだろう」
「…」
相変わらず人の心に触れようとする。憎い少年だな、キミも。
その言葉が風に乗ってどこかに消えるが、来ヶ谷は否定しない。
「…理樹君に出会って、初めて、誰かを大切にしたいという感情を手に入れた。だが、彼を強くするために、私は彼を愛することが出来なかった」
「…古式を大切に想っていたのに、現実ではまったく見向きもしなければ交わりあうこともなかったただの通行人Aに過ぎなかった」
だから、足踏みしてるんだ。未だに。
「似たもの同士だな」
「あぁ」
ラジカセからはラジオに乗って、聞きなれない歌が流れる。今でも普通のJ-POPはあまり聞きたがらない。
基本は無音でもまったく問題の無い男だからな、俺は。

---明日からも生きていかなくちゃ 孤独だけど独りじゃないんだ
  今日は何もかも ちょうどいいんだ キセキかもしれない Beautiful Day---

 「似たもの同士、付き合ってみるか?」
悪戯っぽく笑う来ヶ谷に。
「バカを言え。俺よりいいヤツが大勢いるだろう。それに俺だってお前には勿体無い」
「後悔するぞ、その発言」
「望むところだ」
向かい合って笑いあって。
「だが、俺にはお前がちょうどいいのかもしれないな」
「それは私が言うべき台詞だ。私にとって、キミ程度がちょうどいいのかもしれない。良くは分からんが」
「おーい!こっち来いよ!」
大声で手を振る真人。相変わらず騒々しいヤツだが、それがいいんだ。
手を差し出す、俺。
「行くぞ、唯湖」
「…」
急に顔がボンッ、と音を立てて赤くなったが、すぐに俺の手を取り。
「付き合ってやるとは言ったが、結婚するとは言ってないからな、名前で呼ぶな、謙吾少年」
ぬくもりを感じながら走り出す砂浜。手のぬくもり、サンダルからしみこんでくる、砂の熱さ。
今年の夏は、いや、来年も、再来年も、こんな風にしていられるだろうか。
分からないけど、独りじゃないんだ。振り返ると、駐車場のケンメリが丸い目で俺たちのバカさ加減を見守っている気がした。
(終わり)


 あとがき。

はい、久々の作品は謙吾×来ヶ谷、時々真人というちょっとよく分からない組み合わせでした。
前々から謙吾×来ヶ谷もありかなぁ、とは想っていたんですが、中々感情移入がしにくい部分があって見合わせてました。
曲のBeautiful Dayは個人的にはマシャの楽曲で2番目くらいに好きな歌だったりします。
第一位は『はつ恋』、第2位がコレ。第3位は最愛。
特に最愛は女性視点で描いた歌だから、感情移入しやすくて、mさんのTRAFFIC JAMの投稿掲示板にて現在SS公開中です。
今年は実家がある故郷の長崎が大河ドラマ『龍馬伝』の影響で盛り上がっているし、マシャが主演だし、怒涛の福山ラッシュ頑張ります。
相坂でしたー。

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