届けたい想いを綴るために、もう何時間もここに座ってる。
増える紙くず。君への想いはどうすれば伝わるんだろう。
綺麗事?率直な思い?どっちも書ける勇気ないや。
だけど、ペンを置くことはしない。本能がそれを拒む。
君への想いを、カタチにしたいから。


素直な気持ちで書きたい曲SS『ボクノート』 music by スキマスイッチ(真人のトラウマ

 詩を書くような柄じゃない。理樹は自分でそう思いながら決してペンを置かなかった。
「なぁ理樹よぉ。そろそろ宿題」
「今大事なことしてるんだ。邪魔しないで」
「…」
ぽかーんとした表情の後、しょんぼり項垂れる真人。
「そ、そっか…じゃ俺謙吾と宿題してくるわ…」
「うん。ゴメン。ちゃんと埋め合わせするから」
「…おう。お前も頑張れよ。筋肉がいるようならいつでも言ってくれ」
それはいいから、と言う前に真人は部屋から出て行く。何だかんだですごくいい奴に違いない。
そんな彼の後押しの中でひたすら書くことを考えている。

 季節は秋。もうすぐ文化祭を控えている理樹たちは、バンドをやることになっていた。
無論、言い出したのは恭介だ。
『野球の展示試合なんてするだけ無駄な気がするからな。ここは大人しくバンドをやろう。な、理樹』
すぐに同意を求める恭介。断れないのも知っていて。
そして二つ返事で同意したら作詞を任されたのだ。
『曲は来ヶ谷が作ってくれるらしいからな。チャンスじゃないか』
『チャンス?』
『お前と来ヶ谷、まだキスくらいしかしてないんだろ?』
『…』
恭介は何もかもお見通しだった。
唯湖と交際を始めて早3ヵ月半。二人は相変わらず進展していなかった。
もちろん、交際しているのだからキスから先、身体に触れたり、セックスしたり。
そういったことも可能なのに、理樹の度胸が、それを許さなかった。
また、唯湖も姉御としての振る舞いをしているが、その実思ったよりオクテ。
ゆえに触れられることまでは良くても、その先に進もうとすると怖気付いてしまう。
『だからこれをいい機会に、恋人からさらに飛躍できるチャンスを目指せよ。来ヶ谷が本気で惚れるような詩を書いてさ』
『…』
まるで唯湖が本気じゃないような言い方だけど、それは確かに度胸のなさが原因でもある。
だからこそ、彼女の心に訴えかける詩を書きたい。そう思ったのだ。
願わくば、あなたの恋した男の子は、あなたを本心から愛していますよ、と伝えられるように。


 しかし、詩は中々上手く書けない。
文系は成績も悪くないし、定期考査では学年の上位の常連だ。
だけど最近まで色恋沙汰と無縁だった理樹だから、いろんなアーティストの詩を読んでみたがまったく理解できない。
「綺麗事とか、そんなの書きたくない」
自分の恋人がどんな人間かくらい分かる。
本心じゃない詩を贈られて喜ぶバカはいないし、彼女は少なくとも洞察力が鋭い。
「言葉を選ばなきゃ」
それがさらに遅筆にさせる原因となっていた。
消しゴムで消して、また書いてまた消して。気付いたら紙くずの山が出来ている。
それでも諦めない。止めない。止まらない。
「唯湖さん…」
今頃彼女は何してるだろう。と、そのとき、ちょうどメールが入った。
送り主は…唯湖だ。

送信者:来ヶ谷唯湖
題名:『無題』

本文:『今何をしているんだ?今日は顔をあわせてないし、おねーさん寂しいぞ…』

 彼女なりに案じてくれているのだろう。
だから『安心して。別に体調は悪くない』とだけメールを送る。
すると返事はすぐに来た。

本文:『そういう意味じゃない。鈍感トウヘンボクめ』

 どういうことだろう。
鈍感な彼は気付かない。詩が上手く書けなかったこともあいまってイラッとする。
『僕だって…』

 そこで思いとどまろうとして間違って送信してしまう。
「…」
唯湖から返事は来なかった。
「…嫌われたかな」
怖くなる。途端に恐怖が盛り上がってくる。自分勝手な奴だと自己嫌悪に陥る。
「…」
近くにあったカッターナイフで手を刺そうとする。唯湖を哀しませた、悪い手を。
と、その手は振り下ろされない。恭介が直前で止めたから。
「おーっと。馬鹿な真似すんじゃねぇ。そんなんじゃいい詩どころかトイレも不自由になるぞ」
「…なんでさ」
なんでここにいるのさ。そう言おうとしてすぐ返事される。
「来ヶ谷だ。心配して俺にメールしてきたんだ。理樹の様子が変だってな。いい彼女じゃないか」
「…」
少しジェラシーを感じる。何で直接言ってくれないんだろうかと。
でも無理もない。相手を傷つける発言をしたのは間違いないんだから。
「お前が思い悩む理由は分かるよ。俺が焚き付けたんだしな。だから」
恭介は目線を理樹に合わせ微笑む。
「俺も考えてやるよ。だからお前はお前らしく書け。来ヶ谷がどうとか、愛情友情じゃなくて、お前らしく書け」
「僕、らしく」
自分らしく、真っ直ぐな詩。
その延長線上に、来ヶ谷唯湖という大切な人を、描けるなら。
理樹はカッターを放り出すと、もう一度ノートに向かった。


 何をしても続かなかった子どもの頃の自分。
唯湖が自分のどこを好きになってくれたか分からない。これぞってものもない人間なのに。
だけどそんな自分に与えられた幸せ。それがあるというなら。
今の迷っている自分自身もしっかり信じてやりたい。
だから、理樹はもう一度シャープペンシルを握り、一つ一つの言葉を埋めていく。
ありのままを唯湖に届けたい。
着飾った自分である必要はない。唯湖は今の理樹を愛してくれているのだから。
その信念に裏打ちされた彼の詩は、午前0時を回る頃、完成した。

 「唯湖さん」
「…ん」
昼休みの放送室に、愛しい人はいた。
いつも美しい彼女の顔に小さいがクマが見て取れる。
「寝てないの?」
「…どっかの誰かさんが私に無用の心配をかけたからな」
「…ゴメン」
言って、彼女を抱きしめようとして思いとどまる。
「理樹君…?」
「まずは、これを見て欲しいんだ。偽りのない、僕の本当の言葉を」
「…」
恋文か?と少し疲れた笑みを見せ、ノートを受け取る。
そしてその詩を静かに朗読し始める。

---今僕が紡いでく 言葉のかけら 一つずつ折り重なって詩になる
  キレイじゃなくたって 少しずつだっていいんだ 光が差し込む

  この声が枯れるまで歌い続けて 君に降る悲しみなんか晴らせればいい
  ありのままの僕を君に届けたいんだ 探してたものは…目の前にあった----


 「ありのままの、理樹君…」
「うん。ありのままの僕を、唯湖さんにあげたい。そして、ずっと一緒にいたい。こんな詩の為に、寂しくさせてゴメン」
「キミって子は…おねーさん、泣きそうじゃないか」
もう泣いてるけど、そこは突っ込まないであげよう。
そうして理樹は彼女を抱きしめる。放送室の重厚なドアに鍵をかけ、そして唯湖をソファーに押し倒す。
「愛してるよ、唯湖さん」
「私もっ…ぁっ…」
『儀式』は、二人を強い絆で結びつけるために、穏やかに緩やかに始まった。


 「…痛かったぞ。愛しい人と結ばれる痛みだから気にはしないが」
「ゴメン、へたくそで」
内股に血の流れた後が見える。それをウェットティッシュで念入りに擦る唯湖。
スカートが短いから、配慮しているのだろう。
「こんなので祝福されても嬉しくないしな」
「そうだね…」
「二人だけの記念にしたいからな」
「…うん」
そしてもう一度抱き合い、唇を啄ばむ。
「んんっ…理樹君。キミの詩、私は大好きだ」
「だから、最高の伴奏に最高の詩を載せるよ。初の夫婦共同作業だ」
「え、それって…」
顔を真っ赤にして聞く理樹に対して、さらにトマトより真っ赤な顔を向けるシャイな姉御の一言。

「そういうことさ。しっかりしてくれ、未来の旦那さま」
幸せは、ほら、こんなところに、ね。
(終わり)


あとがき
スキマスイッチ大好きです。花火エピソードで真人の口からスキマスイッチって単語が出たとき思わずニヤリと
したのは有名な話、時流です。唯湖ちゃん、ロストヴァージンおめでとうって感じのエピソードでした。
どちらかというとヤリまくりの理樹君があまり見たくなくて、エロはあまり書きたくなかったのですが、シーンの
描写も入れて欲しい、という意見があったら書き直すかも。まぁそんなのない気がしますけどね^p^

で、唯湖さんって浮気したら悪・即・斬って感じなんでしょうか。
では感想とかまってまーす。時流でした。

【戻る】