「ねぇ、稟くん。私たちが孕んであげるよ」
「稟くんの赤ちゃん…」
「きっと、かわいいよねっ♪」
「稟ちゃん、ボクが、お腹を痛めて産んであげるんだからね…?」
やめろ…。
「稟さまに孕ませられて、私、どうなってしまうんでしょう…」
「稟さんの赤ちゃんを妊娠だなんて…まままぁ…」
俺はそんなこと、望んでいない…っ!
「ねぇ。素直になろうよ土見くん。子作りは世界を救うのですよ」
裸になった、桜、楓、シア、亜沙先輩、ネリネ、カレハ先輩、麻弓。
まるで中世の彫刻や絵画のような、芸術を思わせる曲線美。そして、迫る身体。
女の子に特別モテる、という意識はなかったし、かといって嫌われないだけマシ程度と思っていた自分の浅はかさ。
暑い暑い、と、夏だからしょうがないだろう、酒だって飲んでるんだから、なんて突っ込む暇を与えずに、
次から次に彼女たちは服を脱いでいった。最後に下着まで脱いで。
「ね、稟くん?女の子を本気にしちゃったら最後、お嫁にもらわなきゃ、ダメなんだからね?」
桜がパンツを脱ぎ、それを俺の顔に被せる。今時の小学生でもこんな変態パンツ仮面ごっこなんてしないぞ。
冷静に、至極冷静に事態を傍観している自分に畏怖を感じつつ、俺はその目線の先、いつの間にか裸にされた俺の股間に、
全裸の桜が跨り、静かに腰を下ろす瞬間を目の当たりにして…。

「だぁっ!」
静謐な空気。嫌な寝汗、妙に変な胸騒ぎを覚えて、目を覚ましたのだった。
「…夢?」
夢オチなんて、俺もまだまだだなぁ、なんて悟りながら、パンツが汚れているのに気がついた。
…夢精なんて、俺もまだまだだなぁ。同じように悟りながら、起き上がり、タンスを開けるのだった。
…待て、今日は珍しく楓に起こされるまでもなく目を覚ました。これは何か嫌な予感がする。
例えば今が既に12時くらい。楓は夏風邪をぶり返してキッチンで昏倒。プリムラは昨日は確か魔王のおじさんが預かっていったはず…。
ん。
「昨日何かあったっけ?」
なんかすっぽり抜け落ちてるぞその辺り。よく分からないがとりあえずまだフル回転には程遠い頭で状況を確認する。
時計は、午前7時15分を差したばかり。うん、時間は別段問題ない。奇跡だ。
では、楓が寝坊しただけなのだろうか。少し心配になる。あいつはいつだってそうだ。俺のことばかり心配するあまり、自分のことは疎かに
してしまう傾向がある。もっと自分を大事にしろっていつも言い聞かせてるのに。
伝わらない想いか。それが一番辛いな。まぁ、もし昏倒でもしてたら、頭小突いて、いっぱい説教してやるとしよう。
そんなことを考えながら、ドアノブを引く。すると、ドアが開かない。
「ん」
いつも楓が起こしに来るので、常に鍵は開けているのに、なぜか今日は施錠されている。
「…俺らしくもないな」
スターリンみたいにパラノイアに陥ったか?なんてバカなことを思いつつ、鍵を開けようとすると。
「ふぅんっ…稟くんっ…」
ドアの外から誰かの声。
一発で分かる。楓だ。
俺に部屋に入れてもらえなかったから、嫌われたとでも思ってへたり込んでいるのだろうか。ちょっと罪悪感。
だがそれにしてはやけに色っぽい声。いや、色っぽいを超えて、艶っぽい、のほうが正しいのではないだろうか。
…嫌な予感。もう半分消し飛んでしまったけど、今朝の妙にリアルな、嫌な夢が脳内にリフレインする。
いやいやまさか、あの楓に限って。
ドアについているのぞき穴で外を見たとき、そんなものは勝手な妄想で虚構なんだと、改めて現実を叩きつけられる。


 「ひゃぁっ…稟くん、ここ、ここにぃ、お、おち○ちんっ…」
制服姿の楓さんが、上着とブラを上にずらし、M字開脚全開で、黄色い可愛い下着の上から、すごいところを弄っておられました。
目をぎゅっと閉じ、恥辱に頬を紅く染め、唇をだらしなく歪ませ、その隙間からだらだらと唾液を零して床を濡らす。
パンツは明らかに、彼女の汗と、おそらく彼女の奥から分泌されたであろう、糸を引く液体によってベトベトになっており、その濡れ様は、
正常な男なら正視出来ないか、樹みたいに悟りを開いた奴なら即座に襲い掛かりそうな激しさ。漂う香りも、雌の匂い。
「ダメっ、下着、汚れちゃうっ…」
もう十分汚れちゃってますから、今さら気にする必要もないですよ。そんな事が平然と言えたら俺はどれだけ幸せか。
自分の中の楓像がぶっ壊され、唖然としている俺を知る由もなく、楓は、パンツを脱ぎ棄てた。
「稟くぅんっ…ここっ、ここで赤ちゃん、育てさせてくださいっ…!」
視線に気づいたのか、はたまたドアの向こうにいる俺に許しを請うたのか、楓はそのまま腰を浮かせ、片手で上体を支え、
もう片方の手で秘苑…まだ誰も触れたことのないであろう、膣の入り口を開く。本人は子宮まで見えるでしょう?とでも
トリップしているのだろうか。確かにそこはまだ綺麗そのもの。やわらかなサーモンピンクが、俺の来訪を待ちわびている。
「稟くんのためならっ、痛いのも、苦しいのも、我慢しますっ」
「だから、私を一番に、お母さんにしてください…っ!お願いです!」
涙を軽く浮かべて絶叫する彼女の姿を見ていられなくなり、俺はのぞき口から目をそらした。
外からは相変わらず俺を求める楓の嬌声。聞こえない。俺は何も聞いていない。
これは夢だ。夢の続きなんだ。
目を覚まそうと必死に脳に訴えかけるが、何も動かない。
だけどこれを現実と認める勇気は今の俺にはない。どうすれば。俺はどうすれば…。


Essence-キミと私のラヴジュース- 第1話『それは棘の痛みに似て』


 俺と楓は幼なじみとして育った。
それこそ小さいころからずっと一緒。何をするにも一緒だった。二人で一つのように。
ずっと一緒。そんな拙い約束。
それは、案外簡単に崩れる口約束なんだ、と俺は知らされた。
俺の両親と楓の母親が乗る車が交通事故に遭い、彼らは皆帰らぬ人となったのだ。
病院に運ばれた時、ほぼ即死だったことが確認されたらしい。それだけでも、彼らは救われたのだろうか。今の俺には分からない。
しかし、最愛の母を亡くしたショックから、楓は次第に生きる気力を失い、最後には生きることすら放棄して、自分の殻に閉じこもった。
大切な幼なじみ。彼女が日に日に弱って死に向かう姿を、俺は黙って見ていられなかったんだ。
なんとか生かしたい。医者は生きる目的を持たせれば、彼女は生きられる。確かにそう言った。
だから。

---ずっと、一緒。---
その言葉の重みを知っているから、俺はおじさんと話し合って、嘘をつくことにした。
俺がわがままを言ったから、おばさんたちは急遽引き返すことになり、その途中で事故死したんだと。
今の楓なら絶対見破れるだろう、そんな嘘も、当時まだ幼かった彼女はバカ正直に信じた。
そして、俺を恨むことで生きる目的を手に入れてくれたし、実際ここまで生きてくれている。
楓が真実を知るまで、色々殺されかかったけどさ…。
だから、今の尽くしに尽くしまくる楓が生まれたわけなのだが。

「稟くん、お願いです、開けてください…っ。鬱陶しい女と思われてもいい、認知してくれなくてもいいんです。産ませてっ、孕ませてっ!」

 子供を産みたいとまで言いだすように躾けた覚えはありませんが!?
身体で誘惑して、是が非でもドアを開けさせようと画策する悪い女の子になってしまったんだ、なんてらしくもないけど絶望。
某糸色先生なら、次の瞬間には木にぶら下がったロープに身をゆだね…。
「ってその気はないぞ」
とりあえず夢精で気持ち悪いパンツを脱ぎ棄て、寝汗で汚れたシーツにくるくる包む。そして新しい服に着替えると。
「…」
さすがに窓から脱出なんて、バカができるとは思わなかった。
何が悲しくてこんな静謐な空気の心地いい朝にジョン・マクレーンみたいなバカをやらなきゃならないんだ。
…別にダイハードじゃなくてもいいか。アクション映画は他にもあるだろう。ある意味楓の今の状態は大量殺戮兵器(リーサルウェポン)だけど。
と、外からトントン、と窓を叩く音。
「?」
仮にもここは2階建て家屋の2階だ。どこかのバカ親2人でもまず普通なら登って来ないし、あのお二方なら登ってくる前に勢いで
俺の部屋のドアなんて吹き飛ばせる。すると少なくとも俺が知るなかで、ここに登って来れるのは彼しかいない。
「…マツリさんか?」
『えぇ、ご明察です。助けに参りました、婿殿』
あぁどうやら間違いではないようだ。カーテンを開け放とうとしてそこで思いとどまり確認する。
「俺をさらってシアに献上、なんて考えてるんじゃないだろうな?」
楓がこの状態なら、もしも夢の中の話が正しければ、シアだってそうなっている可能性があるじゃないか。
そんな悪夢を振り払ってほしい。答えは・・・。
「………そんなことは、ありませんよ?」
「今の間はなんだ今の間は!?」
「まぁ、それは冗談です。さぁ、妙な状況になる前に早く」
「あ、あぁ」
カーテンを開け、窓を開けると、そこには律儀にも縄梯子を用意したマツリさんの姿が。
「さ、早くここから脱出しましょう。稟殿の身辺もお守りしていますが、今回はどうやらただならぬ状況らしいので」
「あぁ、恩に着るよ」
「勿体ないお言葉。さぁ、早く」
かくして俺は、ドア一枚向こうで相変わらず嬌声を上げ続ける楓を放置して、芙蓉家からの脱出に成功したのだった。


 「はい、お茶」
「あぁ、気を遣わせてしまって申し訳ございません。どうぞ私のことはお構いなく」
「いやいや、救ってもらったお礼さ。きっと足りないと思うけど」
「……本当にあなたという人は度し難い…。そういうことなら、いただきます」
妙に遠慮深いマツリさんに納得してもらい、よく冷えたお茶を受け取ってもらう。
マツリさんは、シア…リシアンサス王女殿下付きの隠密としてこっちの世界にいる人だ。
抜けているような、それでいて行動の素早い人。まさに忍という言葉がよく似合う人物だと思う。
「しかし、よくまぁあの状況に気づいたね」
その疑問に、言わずもがなだと答えるマツリさん。
「さっきも触れましたが、仮にも貴方は将来シア様と結婚し、次期神王陛下としてかの世界を継がれるお方。常に身辺を護衛することは務めです」
「そう平然と言い切れるのがすごいんだよ。俺にはいまいち状況が見えてこないしさ。今日の状況だって…」
「ふむ…興味深いですね。今日の状況というのはいかがなものでしょうか。次期神王陛下というのはいったん置いておくとして」
「あぁ、そうしてくれると助かる。実は…」

 俺はマツリさんに事の次第を話した。
昨夜の状況から察するに、誰かが言いだした『みんなで孕もう』というとんでもない話。
そして迫られ、恐怖のあまり部屋に飛び込んで施錠をした、という話。
その後、目を覚ますと楓が部屋の外でオナニーをしていた、という話。
「…ふむ。で、襲ったんですか?」
「マツリさん、あんたが隠密じゃなかったら殴ってるところだぞ」
「まぁ、それは冗談です。しかし、その酒宴は相当なモノだったのでしょうね。当日私は神界に召喚されていたので詳しく存じませんが」
その日彼は任務報告と、新たにこの任務に適応できる人材のスカウトのため神界に戻っており、別の人間が監視を担当していたという。
「詳しくはそのものから聞くとしましょう。ただ、大体の事情は稟殿のお話から線が一本になりました」
「ほう?」
何か特殊な事情だというのに、一瞬にして察するこの観察眼と洞察力。さすが隠密だなぁ、と納得してると。
「まぁ、すべては妄想乙、という話なのでしょう?もしくはそれなんてエロゲ?とこの世界の方は言うそうです。エロゲが何か知りませんが」
「…やっぱりあんたとはいつか拳で語り合う必要があるようだな」
「いやですね。そんな怖い目にならないでください。あくまで冗談ですから」
「むぅっ」
樹みたいに露骨な悪意がないからこそ絡みにくい。あぁ、神様ってやつは。

「ひっくしっ!」
「あれ神ちゃん、風邪かい?」
「ずるる。いや、分からんなぁ。誰かが俺の噂でもしてるんだろ」
「噂されるなんて、まだ青春まっただ中だね、神ちゃん」
「はっはっは!たりめぇよ!俺はいつだって青春の18きっぷって奴よぉ!」
こんな話が展開されていたのは別のお話ってことで。


 「それは恐らく、神界名物『孕み酒』だと思われます」
「孕み酒?」
絡み酒じゃなくて?
なんてことを言う前に、彼が続ける。
「稟殿もご存じの通り、神界は男女比率でみると女性のほうが多く、常に多くの子孫を残すため、一夫多妻制がとられてきました」
それが何の関係があるか、俺みたいな子供だって分かる。
夫婦の存在価値、そしてその証明の最たるもの。妊娠と出産。
今でこそ病気で子供を産めない身体や書類上の夫婦という存在に人間界では理解があるが、神界と魔界ではそんなものに理解があるわけがなく。
「子孫を多く残すことが、すなわち種の存続につながる。しかし中には不能などの理由や、容姿などの関係で、結婚しても性交を拒絶される場合もあります」
そこでとある魔術師が発明したのが、飲んだものを自動的に子作り全開モードにしてしまうまさに悪魔の酒、孕み酒だという。
「飲んだ状態で一番最初に視界に飛び込んできた男性をその対象に据え、あらゆる方法で子種を求める魔性の酒です……」
で、なんであんたが悶えてるんだあんたが。
ツッコミはこの状況では無粋なのだろうか。マツリさんは続ける。
「そのあまりの力に、近年神界でも女性の権利が叫ばれ始め、一部アンダーグラウンドを除き、全神界から抹殺されたはずなのですが…」
「誰かがそれを所有していて、横流しした、と」
「……」
頷くマツリさん。
「で、それは男が飲んだらどうなるんだ?」
仮にそうだとしたら俺はその酒を飲んでいるのだから…彼女たちを孕ませる!?
「男性が飲んでも悪影響はありません。まぁ、酔いが他の酒に比べ回りやすい、という程度でしょうか」
それでも俺には大問題なんだが!
そんなことは今どうでもいい。俺が一番気にしているのは。
「そんなトンデモ酒飲んで、楓たちは大丈夫なのかよ」
「……えぇ、酔い自体は既に醒めているので、日常生活に問題はありません。ただ…」
「ただ?」
マツリさんは息をのみ、一瞬躊躇し、そして切り出した。
「問題はその恐ろしいまでの副作用です」
「副作用!?」
楓たちが死ぬとでも言いだすつもりか!?だとしたら俺はおじさんたちを…っ!
「熱くならないでください。稟殿が思っているようなことはありませんから」
「…」
そう、だよな。シアたちが飲む可能性だってあるのに、そんな危険なモノをおじさんたちが用意するわけがない。
コホン、と咳払い。そして。
「その酒は、対象物を見つけると、本能が理性を簡単に掃滅し、種の存続のために行動するという副作用があるのです」
「…ってことは?」
「もし彼女らの理性が本能に敗北したとき、街中だろうと人前だろうと関係なく、獣のように性交を…っ」
だからなんで悶えるんだあんたが!
「っと失礼…。とにかく、そんな事態が発生しかねないのです。今日の楓さんだってそう」
「…それは、他の人間では起こりうるのか?」
その質問には、微笑みながら首を横に振る。
「いいえ。むしろその酒を飲んだ人間は、対象の男性以外はすべて敵と認識します。シア様ならまだしも、ネリネ様クラスになると」
触ろうとした瞬間、木っ端みじんにしてしまうでしょうね。笑いながら言うなよ。
「ま、まぁ安心したようなそうでもないような。で、じきにそれも消えるんだろ?」
「えぇ。消えますよ。孕ませたら」
「そうかそうか……ってえぇぇぇぇぇぇ!?
「驚くほどのことでもないですよ。そのための孕み酒なんですから」
「あ、そっか。ってなんか納得いかないぞ…」
そんな俺に考えても無駄だ、と悟るマツリさん。
「私のほうでも、他に解毒法がないか探してはみましょう。お茶のお礼です。ただ稟殿は孕ませることがすべてと悟り」
この夏の間の長い休み、精一杯励んでください。
それだけ言い残して、忠実なる忍はどこかに消えた。
「…」
急に誰かの子の父親になれ、なんて酷な話だけど。
俺が動かなきゃ、彼女たちが救われないんだ、ってことは確かなのだろう。
「だが納得いかーん!」
これだけは、譲れそうにないです。
(つづく)


 あとがき

さて、孕ませ地獄の始まりです。SHUFFLE!という作品の形式上、ここの救いのない部屋みたいなダーク孕ませは絶対
合わないと思うんですよ。だから、明るく稟くん家族計画をやってみようと思ったわけで。
ちなみに相坂自身は言い出しっぺの桜ちゃんを強く推していますが、皆さんはどうでしょうか。
ある種人気投票みたいな部分もあるので、今後機会を設けて人気投票を行い、脱落した方から孕ませの魔法を解いていく、
って感じの展開もやってみたいなぁ。相坂でした。

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