「時に理樹君。日曜日はヒマか?ヒマだろう、ヒマと言え、さもなくば断罪だ」
「よく分からないけどどうして殺されなきゃならないのさっ」
ある数学の時間、例の如く授業をサボってお茶会としゃれ込んでいる二人。
ペンを片手に唯湖が用意してきた『理樹君専用サルでもチンパン総理でも分かる数学例題集』と
格闘する理樹に、それまで素描をしていた唯湖が語りかけた。
「そんなことはどうでもいい。理樹君はどうせバカたちと棗兄に振り回される日曜日を送るだろう」
「それでもいいし、僕寝てたいよ…」
「そんなキミの後ろの貞操を守る義務が私にはある。今の試験に出るからメモっとけ」
「何の試験だよってか僕の話聞いてないよねっ!?」
「ええいうるさい黙れこの春原が」
「扱い酷くないっすかねぇ!?」
後ろの貞操にはツッコミもなく、春原という発言に思わずバカ理樹が出てくる。
…てか、春原って誰っすかねぇ!?


シャイな唯湖のファンタジーゾーンなSS『ふれて未来を』

 そんな春原は置いといて。
昼休み。珍しく放送室に行く前にパンを買いに学食に行くと、そこで恭介たちに出会う。
「よう、理樹。久しぶりだな」
「今朝あったばかりだよ」
「いや、昼休みの食堂では、という意味だ」
間髪いれずに謙吾が恭介のフォローをする。あぁ、なるほどと頷く理樹。
「最近来ヶ谷さんとずっと一緒だったから」
「なんだぁノロケかぁ?てかそこの筋肉もプロテインと鉄アレイを恋人にしないで、さっさとボディービルダーの彼女を作れとでも言いたげだな、あぁ?」
「そ、そんなことないよ(久々に見たすごい言いがかり!さすがだよ真人!)」
思わずお代を払ってしまいそうになるが、その手を辛うじて引っ込める。
恭介が真人をなだめる。
「まぁ、祝福してやろうぜ。理樹だっていろんな悲しみを乗り越えてアイツと結ばれたんだからな」
「…そうだな」
それ以上は辛気臭い話になるからと、恭介の一声で全員が定位置に腰掛ける。
そこは、リトルバスターズの、限られた人間…初期メンバーのみが集う席。誰も近寄りたがらない、そんな場所。
だが理樹はこの後唯湖に会いに行こうと思っていたから、その場所から逃亡を図り、そして思いつく。
--そうだ、恭介たちに相談してみよう。
唯湖とのデートは決して初めてではない。しかし件の事故の後、だいぶ中断されていたのも事実だ。
世界の秘密を知って、それを壊した今なら出来る。
『普通の恋人同士のデート』。
だけど、理樹にはそんなノウハウがない。どうすればいいか分からない。
その話を事細かに恭介たちに伝える。もう恋人同士とはいえ、唯湖を失望させるようなデートにしたくない、と。
「理樹。お前の考えは十分に分かった」
「恭介…」
「オペレーション・ラブラブハンターズNEXTの始まりだよ拍手っ!」
「いぇいいぇーい!」
「いぇいいぇーい!」
相談した相手が相当に悪かったらしい。またあの悪趣味なネーミングセンスに裏打ちされたバカ3人のたくらみが始まる。
頼みの綱は鈴…では勤まるわけもなく。
「でーと?あぁ、あれか。痛いけどがんばれ」
しゅっしゅっ、とねこパンチ。どうやらデートをどこかの異種格闘技と勘違いしているらしい。どこの格闘技だか…。
かくして、恭介命名『ラブラブハンターズNEXT -2-E愛の逃避行、俺は断じて(21)じゃねぇ!-』が始まったのだった。
ちなみに作戦名の途中の(21)はデートのノウハウがあるとは思えない恭介に対して真人が『お前(21)じゃなかったっけ?』と
冗談半分に聞いて激昂した恭介が無理矢理途中に殴り書きをしただけの話で、作戦には別段何も関係ない。迷惑な話。


 「理樹君が来てくれなかった。浮気を疑った。そしたら案の定バカ3人と鈴君でハーレムをしてた」
「く、来ヶ谷さん…」
教室に戻るなり、理樹の席に座って待っていた唯湖から多少上目遣いのジト目で見られる。思わず萌えそうになるが、
それを上手く食いしばって近寄ると、上記のような拗ねた口調の責めを受ける。野郎3人のハーレムなんて正常な理樹には
札束を積まれても勘弁だろうが。
「理樹君が私のことを嫌いになったみたいだ」
「なってないってば」
「ならここで私が七転八倒するくらいの一発ギャグをするんだ。そしたら機嫌直してやる。ほらあさっぷあさっぷ」
「何で一発ギャグなのさっ。てかあさっぷってなに?」
「意味くらい自分で辞書を引け。てか率直に言うとググれカス」
「…」
毒されてるのはどっちだ、とやれやれとため息をつきながら唯湖の隣に座る。二人のラブラブっぷりは主に恭介が
学校中に喧伝してまわっているため、もう知らないものはモグリか登校拒否生徒だと言われている。故に彼らの素行を
いちいち気にしている生徒はこのクラスにはいない。
「唯湖さん」
「っ…!」
名前+頭なでなで。唯湖の弱点でもある。これをするとお湯が沸かせそうなくらい顔が真っ赤になり、そして。
「理樹君…」
「ん」
「次やったらぶっ生き返すからな」
本人は人前でやるなバカ野郎という言葉と、嬉しさの間で不安定な存在となり、思考がおかしくなる。バカ理樹並みに。
「あははっ。それじゃ、もうすぐ授業だから」
「…ここで受ける」
「えっ」
思わず聞き返す理樹に、唯湖がうつむきながら言う。
「ここで受ける。理樹君と昼に離れ離れだったから、その埋め合わせをする」
「…」

 実は件の事故の後大きく変わったことがある。
…唯湖に、甘えんぼ属性が付加されたことだ。
それまでは誰も寄せ付けない、どちらかというと全てを翻弄する人間だった唯湖が、頭でも打ったのかむしろこっちが本当の人格なのか、
理樹にだけ甘えるようになった。一緒にいないとすぐ拗ねる。他の女の子と話そうものなら一日口を聞いてもらえない。
先日は女子生徒に黒板消しを頼まれて(例の如く鈴が日直なのに消さなかったため)、消すのを手伝ったばかりにその日は一日中
授業中に携帯のメールが絶えなかった。理樹君のバカ、浮気者、ショタコン御用達、総受け役、などなど、可愛い(?)悪口のオンパレードで。
そうなった唯湖の暴走は止められない。だから、理樹もお手上げ。だが授業とコレは別だ。ちゃんと席に戻るようなだめる。
「ダメだよ、来ヶ谷さん。授業はちゃんと受けないと、頭がいいのは知ってるけど、先生に悪いよ」
「理樹君は先生の味方するんだ。おねーさん寂しい」
「い、いや、そうじゃなくて…」
クールビューティーな中にこの人格の不安定さ。あぁジーザス。
屈服寸前にはなるが、このままでは…という理樹を無視して、席を譲る唯湖。
「あ、分かってくれたんだ」
「いいから座る。座ってから話を聞け」
「う、うん」
相変わらずの甘え口調の唯湖に促され、椅子に座る。さすがに唯湖の豊満なお尻で暖められていた椅子だ。心地いい。
…彼は相当な変態のようです。
「んしょっ、と」
「えぇっ!?」
そして、椅子に腰掛けた理樹の上にさらに腰掛ける唯湖。誰も見てみぬ振り、というより気付いていない。
「くくくくく来ヶ谷さんっ!降りて、今すぐ降りてっ!」
「やだ。理樹君の上で授業受ける。全部私が答えてやるしノートもとってやるから、大人しく椅子になれ」
「そういう問題じゃなくて!」
下半身は正直なもので、脚の付け根のとある一点に血液が集中し始める。あぁジーザス・ファッキン・クライスト…。
「お尻に当たってるぞ。理樹君はお尻フェチか。今度いっぱい生で見せてやるから、今は我慢しろ」
「するしないじゃなくて健全な青少年としてヤバイから…じゃなくて世間の目が痛いから降りてっ!」
「そんなことはどうでもいい。しらばっくれろ、無視しろ、目を合わせる奴は私が断罪する」
「そんな無茶な!」
「ええいうるさい黙れこの尻フェチエロボーイが」
「そんなっ!」
ただもう予鈴が鳴り、そろそろ教師が来る時間だ。このまま押し問答をしていても埒が明かない。
「…怒られても知らないからね?」
「大丈夫だ。私と理樹君はラブラブだからだ」
「どういう理屈だよ…」
半ば諦めながら、ドアを開ける教師を迎え入れた。

「おっ、直枝がいないな。で、直枝の席に来ヶ谷?直枝はどうした?」
「はい先生。私が直枝です」
「…どうみても来ヶ谷だぞ?」
怪訝そうな国語の教師。直後、核ミサイルが落ちる。
「直枝唯湖です」
「だぁっ!」
教室が凍りつく。必死で口を押さえ続きを言わせまいとしたが、簡単に振りほどかれる。
放課後、理樹が生徒指導室に呼び出されたのは言うまでもない。


 「来ヶ谷さんのバカぁ…」
放課後。唯湖は先に練習に行ったらしいが、とても練習が出来る精神状態でないくらい、こってり搾られ、
リストラ宣告されたリーマンのような影を背負い寮への道をとぼとぼ歩く理樹。
「…明日から登校拒否しようかな」
もうすぐ秋深まる時期の空はどこまでも高く、理樹を見放しているようにすら見えた。ジーザス。
空は答えてくれない。ため息。
「はぁっ…」
そして部屋のドアを開けると。
「理樹君カマーン」
「…」
バタン。
深呼吸。
すぅ、はぁ
ガチャッ。
「理樹君、私を食べて、のほうがよかったか?」
「…」
バタン。
深呼吸。
ぜぇぜぇ。はぁはぁ。
ガチャッ。
「何回やらす気だぶち殺すぞヘタレ小僧」
「…来ヶ谷さん?」
「あぁ、見ての通り来ヶ谷ちゃんだ」
そこには、バスローブに身を包み、理樹の椅子に座ってえくすたしーなポーズをしている唯湖が。
チラチラみえるところを考えると、バスローブの下はぱんつは穿いているがブラはしていない模様。
「さすがに全裸でコレは勇気がいる。だけど私はいつでもおっけーだ。さぁカマーン」
「…てか真人は?」
そう言えばさっきからなんか黒いシミみたいなのがいっぱいある。てか少なくともコレは今朝まで部屋にはなかった。
…よく見たら人間の血に見えないこともない。
「あんな筋肉バカは気にしなくていい。さぁ、子作りだ。まずはお世継ぎの男の子を」
「ねぇ真人は!?それから先に答えてよ!!!」
とんでもなくイヤな予感がしたため、とりあえず聞いてみる。すぐさま不機嫌になる唯湖。
「噛み殺すぞ。何回言えば分かる。あぁ言っとくがL5症候群は発症していない」
「殺ったの!?ねぇ殺ったの!?」
唯湖が座っている椅子の後ろには、絶対模造刀じゃないモノが置いてあった。黒いシミの飛び散りはまさしく、
時代劇でよく見る、人が斬られた後のアレだ。
「殺してはいない。全部峰打ちだ。少なくとも奴の筋肉の鎧に対してはな」
「刃で切ってるじゃないか!」
「さて、約束どおり生で私のお尻を見せてやる。そこに跪いて拝むがいい」
そういって椅子に手を掛けて片手でバスローブを持ち上げ、黒い、ツルツルの生地の下着に包まれた、よくカタチの整った
お尻が姿を現すが、今の理樹にそれを見ている余裕はないらしい。あくまで食って掛かる命知らず。
「真人の居場所を教えてくれたらいくらでも拝むから、だから教えてよ!」
「…キミもくどい奴だな。だがお尻を拝んでくれるなら教えてやろう」
「友達思いのいい奴だから教えてやろう、の間違いじゃないの!?」
と突っ込みを入れてみるがもう聞こえていないらしい。

 「理樹君と夜伽をしようと思って早めに帰った後、ぱんつを穿き替えて、理樹君の部屋でシャワーを浴びようとしたんだ」
「すごい厚かましい上に恥じらいを知らない行動だね」
ツッコミどころ満載だがここで話を頓挫させるのは惜しい。一応最小限に食い止めて話を続けさせる。
「そしたらドアを開けるなりウンコッコが理樹君のベッドにプロテインのボトルを置いて腹筋をしていた。気に食わなかった」
「なんでさ」
ちょっと気になる。真人は筋トレをするとき必ず理樹のベッドに物を置く。置き易いのもあるが、理樹が何も言わないためだ。
つまり全面的に同意している行動だが、それが気に入らないとは。その事情を聞いてみると。

 「理樹君がプロテインで妊娠したらどうする。ウンコッコジュニアなんて勘弁願うぞ」
「そっちかいてかそれ絶対あり得ないから」
神様はとんでもないものをこの世に放ってくれました。あぁジーザス。これで何回目だ?
「そしてウンコッコを始末した。愛ゆえに。さぁ、約束どおりお尻を拝んでくれ」
また元の位置に戻り、ぱんつを激しく食い込ませ(当社比30%UP!!!)、横に可愛く振り始める。
「ほら、憧れのおねーさんのお尻だぞ?理樹君なら…触ってもいい」
「…」
誘惑に負け、手を伸ばして我に返る。
「理樹君?」
「…大事な友達なんだ。真人。だから、真人をちゃんと助けてくれないなら…もうおやすみのチューしてあげないっ!」
「ががーんっ!」
安いな。いやこれだけで理樹君に懐柔されるとは。ぱんつを元に戻し、バスローブを正すと、真剣に悩み始める。
「ウンコッコがいると私と理樹君が二人きりになれない…だけどいなかったら理樹君がちゅーしてくれない…うぅっ」
悩み方まで甘えん坊の可愛い感じになってしまっているが、理樹は動じない。
「真人はどこ?僕が助ける」
「…そこ」
「?」
クローゼット。あぁ、ここにいるんだね。
がらがら。クローゼットを開けると。

 じゃんじゃんじゃーんっ!(火●サスペンス●場のテーマ)
首だけになった真人が。
「…っうわぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁがああああっ!」
ゲシュタルト崩壊、もとい、精神崩壊。
…ってよくみると蝋人形じゃん。これ。
「来ヶ谷さんっ!怒るよっ!」
「…くすんっ、理樹君が怒った…」
「うぅっ…」
反撃されるとされるがままの理樹。本来の目的を失念しそうだ。
「…早く教えないと、一緒にお風呂に入ってあげないっ!」
「ががががーんっ!」
一緒に入ったことありませんけどね。このヘタレ小僧に出来るわけないじゃないのさ。
「…そこ」
「…」
後ろを見ると。
「ん?あぁ理樹、今帰ったぞ。それと来ヶ谷、なんでおめぇ、バスローブなんか着てんだ?」
「…」

 唯湖の手の込んだイタズラに思わずOTLになる。
「はっはっは。私の勝ちだ。というより練習をサボって帰ってきた自分を基点に考えたのが失敗だったな、理樹君」
「…」
もう、涙を通り越して呆れるしかなかった。


 疲れた。疲れがどっと押し寄せてくる。
「すぴー」
隣で可愛らしい寝息を立てて眠る唯湖に、ちょっとムッ、となる。額に肉と書いてやりたくなるほど。
ここは唯湖の部屋。さっきまで理樹と唯湖は散々乳繰り合っていた。
『やぁっ、やぁなのぉっ!お尻やぁっ!』
必死で逃げようとする唯湖の×××を△△△して●●●したときの表情など、ソソるというより心が躍った(理樹談
ついでにお風呂でもヤることヤって(下品)、やっと唯湖が寝付いたところだ。
…佳奈多どころか寮長すら介入してこない静けさ。まるで二人を祝福…いや、村八分にでもされている感じだ。
「…帰ろう」
「ダメ。枕」
「…」
まだ少し起きていたらしい。抱き枕にされる。
「…理樹君あったかい…」
「…」
おっぱいが。ふくらみが。ミルクタンクが。同じじゃないか。
「すー」
「…」
寝ている唯湖を襲いたくなる気持ちを抑えながら、抱き締め返す。
「理樹君っ…」
抱き締め返される。
また抱き締める。
「理樹君…」
ギチギチギチ。背骨が悲鳴を上げている。
「にぎぁああああああああっ!」
「理樹君うるさい。殺すぞ」
「全面的に来ヶ谷さんが悪いからっ!」
「くすん…」
「だぁもう!」
なお、この後覚醒した唯湖をまた美味しくいただいたのは別の話。
(終わり)



あれ、そう言えばデートは?
…次回に続く?


あとがき

ってことで愉しんでいただけましたか?
このシリーズは姉御を甘えんぼキャラにして、なおかつ微エロにしちゃおうという企画です。
第1回目の題名は断じてスキマ大先生の曲とは一切関係ありません。何となくです。

ゆいちゃんが甘えんぼになると、きっと相当な破壊力を持つと思います。
それを科学的に実験したい。ってことで。
ノックアウトされた諸兄は、すぐにWEB拍手で症状を報告DADADADADADA!
(動悸、不整脈、呼吸不全など)
お待ちしてまーす。時流でした。

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