凍えそうな季節になったけど、心はいつでも温かい。
それは、暖房のおかげでもなければ、厚着をしているためでもない。
…キミのせいだぞ。こんなにあったかいのは。


クリスマスまで時間あるから冬のお話だよ曲SS『冬の口笛』 music by スキマスイッチ

 冬。それは動物が活動を止め、植物がめぐり来る春に備えて眠りにつく季節。
しかし人間社会には冬眠なんてものはないし、もうすぐ冬休みがやってくるくらいだ。
「理樹君。期末考査の結果はどうだった」
「うん。さすがに唯湖さんには及ばなかったけど、そこそこの順位行ってるよ」
廊下に張り出された期末考査の結果発表を見る。
学年一位は言うまでもなく来ヶ谷唯湖の名が踊っている。
そして問題の理樹は学年第8位とそこそこの敢闘。唯湖が勉強を見てくれたことも影響しているが、
理樹にとっては勉強の後の『ご褒美』が嬉しくて頑張った結果点数が伸びたんだから儲けものだ。
「これで冬休みは心置きなく遊べるね」
「どこに連れて行く気かは知らんが、ほどほどにしてくれ」
唯湖は最近、理樹への『ご褒美』のため、腰が少し痛いとのことだ。
しかし怒るでもなく、あくまで理樹のそばにい続けるのは、そこが心地よい場所だからだろう。
「しかしすっかり冬だな」
唯湖は今にも雪が降りそうな外を見ながらため息を吐く。その息すら白くする廊下の寒さ。
「煙みたいだね」
「失礼な。煙草は吸わないぞ」
「そうだね」
そう言いながら理樹も外を見る。確かに雪が降りそうだ。だとすれば今年の初雪観測になりそうだ。
「雪が降ったら、もっと寒くなるね」
「当たり前だ。寒いから雪が降るんだからな」
そう言いながら所在無くぶらぶらさせている理樹の手を取り、その手で暖める。
「みんな見てるよ」
「いいじゃないか。こんなに冷たい手を放っておけるものか」
息を吹きかけ、擦って、理樹の手を懸命に温める。そうすることがさも使命であるかのように。
そしてひと段落すると理樹の番。同じように唯湖の手を温める。
「あったかい?」
「あぁ。悪い気はしないぞ」
「よかった」
廊下の誰もがそれを見てみぬ振り。しかし少なくとも忌避はされていない。祝福もされていないが。


 「でもこんな天気じゃ、暫く練習もお茶会も休止かな」
渡り廊下を見上げながら、理樹は寂しそうに呟いた。
唯湖は小毬たちと先に帰ってしまい、今隣にいるのは恭介と鈴。
「そのお茶会ってのが何かは知らないけど、練習はするぞ。こんなときにしてこそ根性が発揮されるってもんだ」
「…その割には今日は休暇ださっさと帰ろうって言い出したの、どこの恭介だよ」
「…俺にもそういう日はあるさ。そう、今日は男の子の日なんだ」
「よく分からんがこいつ馬鹿だ」
鈴は相変わらず兄に対して容赦ない。
微笑ましく見つめながら思う。この冬が終われば恭介は学校からいなくなる。
だけど、この冬は始まったばかりだから。いろいろ挑戦したい。なにより。
「来ヶ谷とはどうなんだ、理樹」
「…うん。順調。今度ご両親に会いに行くことになってるんだ」
「…そりゃたまげた」
せっかく手に入れた恋。その恋が実った最初の冬。クリスマスに正月、イベントは尽きない。
その全てを、唯湖の隣にいようと思う。その笑顔の隣で同じ笑顔でいたい。だから家路を急ぐ。
「だが理樹よ。俺たちずっと仲間だからな。心配があったらすぐ言えよ?」
「…うん。ありがとう。でもいいんだ。これは僕の問題だから。僕が解決していかないと」
「…逞しくなったな。どこぞの愚妹とは大違いだ」
次の瞬間、鈴のハイキックが恭介の側頭部を直撃する。
「うっさいわボケ!」
「…兄だぞ?兄ちゃん悲しい…」
「恭介…苦労してるね」
そんな慰めしか出ない。でも微笑ましい光景。
 直後、鈴は女子寮の方向に向かい、そして理樹と恭介だけが残る。
「理樹。来ヶ谷のご両親って何してるんだ?」
「…知らない。今海外にいらっしゃるってことと、実家は都心の一等地にあるってことくらいしか」
「…」
一気に青ざめる恭介。そして理樹の肩を掴み言う。
「理樹。悪いことは言わない。この恋から身を引け」
「どうしてさ」
「…どうもヘンなにおいがする。背後には白い粉を売りさばくヤの付く自由業が見え隠れする気がするんだ…」
「何のことだか…」
恭介は時々突拍子もないことを言う。それは長年付き合ってるから分かること。
だけどここまで突拍子ないと逆に信憑性がありすぎて困る。
「…仮にそうなら、僕、若とか呼ばれるのかな」
「…ヘンな真似して薬漬けにされたら、ピストルの弾をマトリックス避けしながら助けに行くぞ」
「よく分からんが人の実家をヘンな職業にしないでくれ」
「うひゃっ」
奇声を上げて退く恭介。後ろには唯湖。
「…来ヶ谷が姉御って呼ばれる理由が分かった気がしたからさ。でも俺は分かった気になっていただけなんだ。すまん」
「そう思うなら私の理樹君にヘンなことを吹き込むのは金輪際勘弁願いたい。仮にも私の旦那さまになる人だぞ」
「…そこまで話進んでるのか、理樹?」
「…」
うん、と言いたくて言えない。
お祭り騒ぎが好きな彼らだから、認めれば次何をされるか…。
「プロポーズをしたのは理樹君だがな」
…笑顔でさらりと言ってのけるお方だということを忘れていた。
「……イヤァーッホーゥ!理樹様最高!!!ってことでさっそくみんなでお祝いだっ!」
「…はぁ」
こうなると思ったよ。とため息。
まぁいいじゃないかとケラケラ笑う唯湖に背中を叩かれ、さらにため息。
赤裸々に語られそうで怖い色々があるから、怖いというのに。


 「えーでは次、小毬記者どうぞっ!」
食堂での婚約記者会見(仮)。質問で手を上げた小毬が質問をする。
「お二人のー、プロポーズはどちらからでしたかー?」
「うむ。理樹君からだ。『俺の人生の助手席にずっと座っていてくれ』という言葉に胸射抜かれた」
「うわー大胆だねー理樹君♪」
「いや言ってないから…」
「なんだ、私に嘘を吐いたのか?」
「…」
蛇ににらまれたカエル。やむなくその場は認めざるを得ない。
「はっはっは。まぁ正式にはそんな生易しい言葉じゃない。『俺の子どもをたくさん産んでくれ』だったかな」
「…」
あぁもうなんとでも言って…と降参。
「はいはーい質問!」
「はい、次葉留佳記者」
すっかり仕切ってるのは恭介。そして当てたのはあろうことか爆弾をばら撒く少女、葉留佳。
「実はもう姉御のお腹に赤ちゃんとか、そんなオチないですヨね〜?」
「うむ。実はあったりする」
「「「「「「「「…」」」」」」」」」
場が、完全に凍った。
「あ、あのー、姉御?」
「最近アレが来ないんだ。どうやら理樹君がやらかしてくれたらしい。もちろん謹んで第一子を産ませていただくがな」
「…ゆ、唯湖さーん」
理樹、茫然自失。そのまま開き直って抱腹絶倒すればいいのに。
「…というのは冗談で、ちゃんと理樹君は100%アレを使ってくれるからな。アレは何か聞くな」
「…」
それでも十分場を凍らせる力はあった。ここにリトルバスターズのメンバー以外いないのが唯一の幸運か。
「ともあれ理樹君と私は文字通りアツアツだ。そこ、死語とか言っただろう血祭るぞ」
「お、オレかぁ!?」
真人が反応する。そして例の如く断罪シーンが頭に浮かび絶叫して食堂から出て行く。
「ゆいちゃん、あまり怖がらせちゃ、めっ、だよ?」
「うぅっ、そのゆいちゃんは相変わらず慣れんな…」
理樹のおかげでだいぶ免疫がついた気がしたのだが、まだ慣れないものは慣れない。
「しかしまぁ、理樹。しっかりやれよ。お前の真価が問われるんだからな」
「その心配はないぞ、恭介氏。両親は放任主義でな。今更私にどうこう言おうとはすまい」
「なら、いいけどな」
そして不安がる理樹の手を握る。

「まだ出来てないから安心しろ」
「そっちじゃなくてさ」
やっぱり怖いらしい。一応約束では決戦は週末。それまでこの気持ちは続くようだ。


 外に出ると、一陣の風と共に、白い粉が空から舞い降りてきた。
「覚●い剤か!?」
「恭介氏、いい加減そこから離れろ。どう見ても雪だ」
「…雪か」
手に取り、すぐ溶けるその冷たい塊を見つめる。
「雪。舞い降りては散っていく悲しい運命の、冬の桜だな」
「唯湖さんってさ、時々詩人みたいだね」
「ん」
そういって、今度は理樹から、唯湖の手を取り、暖める。
「理樹君…」
「唯湖さんの手、冷たいや。でも、芯があったかい。何か落ち着く」
「…理樹君は、心の底から温かいな。後で油性ペンで額に『来ヶ谷唯湖専用肉布団』と書いてやろう」
精一杯の照れ隠し。そんな彼女の唇を不意に奪う。舞い降りた雪が唇に触れた瞬間のキス。
雪が溶け、水になったそれが二人の唇を潤す頃、どちらからとも泣く唇が離れる。
「…ズルイぞ」
「ゴメン。でも、たまには、いいよね」
「…そうだな」
重苦しい雲を見上げて思う。
これからどんな困難が待っているか、それは分からない。
だけど大丈夫。ささやかな幸せも大きな喜びに変えてくれる仲間達と、最愛の彼がいる。
唯湖は理樹の手を取り走り出す。
「唯湖さんっ?」
「こんなところではもったいない。積もっているところを探して雪合戦と洒落込もう」
「まだ早いってば」
始まったばかりの冬。白い雪が、二人の熱で溶けていく。
この冬は、きっと…。


----響く音色は 冬の口笛 途切れないように 暖めていこう 二人で----

(終わり)


あとがき
…またスキマを陵辱してしまった(爆
ってことでさっそく冬編。これから閑話休題で両親に会いに行くエピソードや、騒がしいクリスマスにお正月。
そして、バレンタインなどを描いていく予定。あら、一年があっさり終わってしまったw

ってな感じだけど、今回のエピソード、なんかあんまり歌の一節とか出てこないね。なんて思ってます。
珍しく曲SSらしくないけど、聴いた曲からインスピレーションをフルにして、作品を書くっていう当初の目的に
回帰できてよかったな、なんて自己満足しながら筆を置きます。ではまた。
とぅー・びー・こんてぃにゅー♪

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