たまに、そう、本当にたまにだけど『あぁ、俺やっちまったなぁ!HAHAHA!』って思うことがある。
勿論思うだけじゃなくて、その後に待ち受ける代償を考えれば相当居た堪れなくて、迷わず樹海なり
崖っぷちなりバンザイクリフなりに行ってティウンティウンってなったほうがどれだけ幸せか、なんて
事態に発展することも少なくないのだが。
「…」
「理樹君、最低だ」
あぁ、ほら。目の前だよ、目の前。


ショートショートな即興SS『理樹君がトイレで唯湖さんと鉢合わせしただけの有象無象なお話』


 ここは、来ヶ谷さんの部屋。
テーブルを挟んでちょこんと座り、いつもの覇気のある目とは程遠い、もう完全ジト目な来ヶ谷さんを
目の前にして、僕はどうしようもなく恐縮するしかなかった。
心なしか目が潤んで上目遣い、と思ったけど、これは完全に睨まれてる。
「…して、理樹君。キミの言い訳を聞こうか?無論許す気はない」
「ちょ、それなら聞かなくても…」
「…何だと貴様。もう一回同じことを言おうものなら、その喉掻っ切って晒し者にしてやる…」
「具体性満載で怖いからっ!」
「ええいうるさい黙れこのハレンチボーイが」
「酷いよっ!」
ダメだ、完全に許してくれる様子はない。
第一、なんでこんなことになっちゃったんだろう。

 それは、今から30分くらい前のこと。
「なぁ理樹よぉ、宿題写させてくれよ」
「相変わらず率直だね真人」
「ありがとよ」
「褒めてないから…」
いつものように宿題が全然終わらず僕を頼ってくる真人。僕はその時既に宿題が終わっており、
予習の段階に入っていた。今度のテスト、絶対負けられない事情があるからだ。
…相手は、あろうことか来ヶ谷さん。絶対勝てるワケない相手だけど、勝たなきゃいけないんだ。
そうしないと、人としてのアイデンティティが…。



『理樹君、次回のテストだが』
『うん』
『条件をつけよう』
『条件?』
『うむ。私がもしも理樹君に勝ったら…』
『絶対勝てないから…学年トップ連続キープの来ヶ谷さん』
そんな僕を無視して提示された条件。それは。
『もし万が一私が勝ったら』
『いや絶対勝つから』
『ええいうるさい黙れこの根性なしヘタレショタフェイスが』
『何気に酷いよっ!』
とりあえず合いの手くらいは入れておかなきゃ、と。
『私が勝ったら、理樹君に一週間私の専属メイドをしてもらう』
『えぇっ!?』
『勿論、メイド服着用で女装だ。ぱんつも用意しているぞ。喜べ』
『喜べないよ!』
『何だ、理樹君にはそっちの気はないのか?』
『断じてないから!』
あるわけがない。ていうよりむしろあの後何故か練習中の僕を遠くから見ていた西園さんの目がやけにキラキラしてたのは
きっと気のせいじゃないと思う。電波を受信したのか、はたまた来ヶ谷さんが喋ってしまったのか。
ともあれ、そんな話だ。
『じゃ僕が勝ったら?』
『うむ。その可能性は低いからここでは論じないでおこう』
『振っておいてそれは酷いよ』
『ふむ。なら勝てるとでも?』
『可能性はないわけじゃないよ。うん』
僕の言うことにも一理あると思う。どれか大きく溝を開けられる教科があっても、得意教科で巻き返せばいいんだ。
例えばそのぅ…えぇと…ほ、保健体育とか…。
『保健体育は除外だぞ?』
『うっ』
ダメだ、敵わないや。すっかり読まれてる。
『もし保健体育だけ成績が良かったら今度からキミの事をエロ魔王と呼んでやろう』
思いがけずエロ魔王の称号を得るところだった。自重自重。
『で、僕が勝った場合だけど』
『まだ言うか。いい加減疲れたぞ』
『いやいやいやまだ何も言ってないから』
『なら早く言うといい。遅漏も嫌われるぞ。早漏などは論外だが』
『何の話だよ…』
『何だね、早漏理樹君?』
はっはっは、と笑いながら言う。
…この間の休日のデート。最後に行ったホテルで、そ、その…。
お、男としては、最低の状態を迎えたわけでありまして、そ、そう…。
『挿入前に出してしまうなんて、女としては屈辱の極みだぞ、まったく』
『ゴメン…』
『まぁ、そういう理樹君も可愛いが、な』
『…』
それもそれで微妙に複雑だ。だから。
『こ、今度のテストで、ぼ、僕が勝ったら…』
『…もう一回私とのえっちにリベンジするのか?』
いや、正直ヤリまくりなんですけどね、もう一回リベンジって言われなくても。
『その、な、ナマ…』
『…ナマ…生でしたいのか?』
『う、うん…』
『…』
その言葉の意味を、僕も知っているつもりだ。
そして、その言葉の意味を、知らない来ヶ谷さんじゃない。
ナマ、言うなればその、こ、近藤さん(死語)をつけない方式。
来ヶ谷さんはいつもその辺りに鈍感なようでしっかりしていて、ちゃんとつけるように言ってくれていた。
付けないでしようとしたら無理矢理押し倒されて付けられたくらいだ。
でも、もしも学力で来ヶ谷さんを屈服させたなら、身体も屈服させたいと思ったから、提案してみた。
『…理樹君』
『もちろん…ナマでその…な、中に、出したい、な』
『…昼間から猥談とは、おねーさんもう沸騰寸前だよ…』
『う、うん、ごめん…だけど、それまでえっちなこと、我慢するから…』
『わ、分かった…と、ちょっと待てエロボーイ』
『いやいやいやその末尾が分からないわけだけど』
来ヶ谷さん、もしかしてかなり混乱してる?そんな心配をよそに、彼女が語り始めた。
『ナマで中に出すってことは、その、に、妊娠の可能性も、あるんだぞ…?』
『…うん。分かってる。でも』
そのリスクなんて、小学校クラスの保健体育で覚えたつもりだ。
『なら、何でそんなことを…』
『どうせなら…ご褒美は……僕の全てを来ヶ谷さんの一番深いところに刻み付けたいんだ…』
『理樹君…』
あぁ、来ヶ谷さん、顔が真っ赤だよ。

あえて言わせて欲しい。唯湖さん可愛いよ唯湖さん。

 その確固たる意志を汲んでくれたのか、来ヶ谷さんはそれ以上何も言わず、ただ静かに頷いた。
『…ただし、もしもの場合の責任は…取ってくれるんだろうな?』
『うん……直枝唯湖にしてあげるから…』
『ぐはっ…』
その後、気まずいムードのまま、二人だけの数学勉強会は終わりを告げた。


 …って長い回想の後でなんだけど。
そんな状況で真人に宿題を写させてあげようと準備をしていると。
『バルサミコ酢 やっぱいらへんで〜♪』
ウマウマなBGM。メールだ。
…因みに来ヶ谷さんの今の着うたは『きみのためなら死ねる -スーパーラヴァーズ-』だ。ラヴィ!
…高速道路で前転したり大蛇の腹から緊急脱出なんて絶対したくないよ。それなら死んだほうがマシかも。
…ヤダね。周りがニコ厨だらけだと。
「理樹、メールか?」
「うん」
目を通してみると。来ヶ谷さんからだ。
『理樹君、話があるから来てくれ。逃げたら死』
「…」
殺されちゃ敵わないから、とりあえず宿題を置いていく。
「写し終わったら机に置いててね。間違っても枕にしてヨダレだらけにしないでよ?」
「おっ、流石だぜ理樹っ!任せとけ!」
…前回それで僕の宿題を台無しにしてくれた筋肉ダルマはどこの誰でしょうね。
「な、なんかよ、背筋がゾクッとしたぜ」
「きっと気のせいだよ」
「あ、あぁ」
筋肉さんがゾクッとするなんて相当な破壊力だぜ…真人の独り言を背に歩き出す。

 もちろん来ヶ谷さんが何も用がないのに呼び出すなんて…。
過去に4回くらいあった。
一回目⇒『つまらんから呼んだ。とりあえずそこで犬の真似をしてくれ』『それで気が晴れるなんてお手軽だね…』その後フルボッコ。
二回目⇒『コマリマックスかクドリャフカ君のぱんつを盗んできたら1万円のバイトをしないか?』『人間の道を捨てたくないです』
三回目⇒新型トラップの研究と称して、部屋のいたるところから凶器が飛び出してきて本当に死に掛かった。
四回目⇒来ヶ谷さんに拘束され、目隠しされて粉すら出なくなるまで搾り取られた。うん、翌日学校休んだ。

…あぁっ、石投げないで!(投げたい人は『呪・理樹』って書いてWEB拍手してね!)
…来ヶ谷さんって、フワフワして、トロトロで、溶けちゃいそうなくらい、うん、自重しよう。
そんなこんなでUBラインで事情を説明する。
「まぁ、来ヶ谷さんと直枝くんのラブラブっぷりは有名だしね。うん、通っていいよ」
毎度これで通してくれるあたり、UBラインって意味があるんだろうか。
と、直後、後ろで『マーン!』と叫びながら走ってきた誰かが、断末魔の声を上げて地面に伏す音が聞こえた。
…他人のふり他人のふり。同類じゃありませんよ〜。
そして来ヶ谷さんの部屋に赴くと。
「…来ヶ谷さん?」
ノックをしたけど返事がない。
だからといって入らなければ始まらない。
已む無くお邪魔しますとだけ告げ、部屋に入る。
部屋は相変わらず隅々まで片付いていて清潔。住んでいる人の生活態度や環境でこんなに変わるものかと思ったけど。
「僕の場合真人に掃除させたら終わるからね…色々」
そう、色々だ。だから、基本は僕が全部やってる。
しかし室内に来ヶ谷さんの姿がない。とりあえず待ってみようと思ったが、呼びつけた以上どこかに隠れている、そして
僕の背後を取らんと暗躍しているかもしれない。そう考えたら前回みたいな拘束愛の10連発プレイの二の舞など…。
うん、二度とゴメンだ、と言えないあたり僕も男だね。

 気を取り直して来ヶ谷さんを探す。
…クローゼットはダメだ。前回それでヤられたから。
で、短絡的に備え付けのトイレのドアを開けたら。
「…」
「…」
「り…理樹…君?」
「…く、来ヶ谷、さん…?」
えぇ、普通に用足しをされておられましたよ。
そしてその後は何があったか覚えていない。そして冒頭に戻る。


 「人の排泄を見て喜ぶ変態が恋人とは…ご先祖様にあわせる顔がないぞ。まぁ信じてないが」
「…」
「恋人じゃなくて変人だな。うむ。それでいこう」
「…」
言葉責めのオンパレードだ。いい加減辛くなってきた。
…。
でも、えっちなことをする時には絶対に見れない、そんな姿。
それが僕の情欲を掻き立て、たまらなくする。
「…なんだ、私の排泄姿を思い出して勃起しているのか?この変態め」
「っくっ…!」
伸ばされたニーソックスの足で、僕のモノをズボン越しに軽く蹴る。
「身体では飽き足らず全てを征服したくなったか…」
「ぅっ…」
痛くて、そしてむず痒い。何かが、湧き上がってくる興奮。
「この事をバラされたくなかったら、分かるな、お利巧な理樹君?」
「…」
きっと、テストの結果云々関係ナシに、メイドになれ、って言われるに違いない。
案の定彼女は僕の股間をある程度蹴り終えると、クローゼットに向かって歩き出した。
「テストの結果如何関係なしだ。メイドとして1ヶ月奉仕してもらおう。なぁに、悪いようにはしないさ」
「…」
しかも期間まで延びている。
このままでは、僕は。
そう考えると、人としてのアイデンティティを捨てるくらいなら、いっそ全部捨ててしまおうと思った。
…強姦魔と呼ばれてもいい。今なら、油断している来ヶ谷さんを襲える。
…そっちがその気なら、こっちだって。
一か八かの賭け。失敗すればレッテル付きの女装変態メイド。成功すれば、あるいは。
その可能性にかけ、後ろから飛びつく。
「っ!」
賭けは、当たった。
普段の来ヶ谷さんなら絶対避けられたはずなのに、簡単に捕まった。
だから、そのまま続ける。
(ここからは良い子の教育に悪いので、ドラックしてください)
「じゃあ僕だって、メイドさせられてもいいから、来ヶ谷さんの身体を犯し尽くすっ!」
「り、理樹くんっ!は、離せっ!くぅっ!」
スカートを捲り上げ、ショーツに手を突っ込み、無理矢理こねくり回す。
同時に制服に手を入れ、胸を散々に弄ぶ。
「変態呼ばわりまでされて、これ以上、黙ってられないよっ!もう濡れてるじゃないか、変態唯湖さんっ!」
「理樹くんっ!」
もう止められない。止めるものか。
とりあえず、喉元通れば熱さも忘れるさ!
そうして、紐パンの紐を解くと、スルッ、とショーツが床に落ちる。
そして壁に手を付かせた姿勢のまま、片脚を持ち上げ、恥ずかしいポーズにしたあと、怒張した主砲を取り出す。
そのとき、嗚咽とともに。
「り、理樹、君っ!」
「な、なんだよっ!」
「お願い…優しく…して…」


「…ぬぅぉぉぉぉぉっ!!!あさっぷあさっぷ〜〜〜〜っ!」


…。
……。
………。
…………どれくらいの時間が経っただろうか。
「ふ…ぁ…」
腰が動かない。だるい。
「…理樹…くん…」
ベッドの上、優しく抱き締められる僕の頭。
「大人げなかった…すまない…」
「ううん…僕こそ、ゴメン…」
素直に謝っておこう。これは、僕がしたことだから。
すると、返ってきた返事は。
「まったくだ。今日は……危険日なんだぞ…計算では」
「へ?」
「それにあれだけ出したら今頃もう着床してるかもしれないな…ふふふっ…」
「…エート、ユイコサン?」
何でロボット喋りの棒読みになってるんだ。最初からそのつもりで…。
「…メイド」
「うっ…」
「子どもが出来たら、出産直前まで相手してやるかわりに面倒見てもらわないとな、身の回りの世話とか」
「…」
「罰として、メイドだ」
「…期間は?」
「生まれるまで。もしくは私が許すまで」
「…」

 ちなみに、この後理樹君は毎日近所の神社で『出来てませんように!』と果てしなく不謹慎なお願いをし続けたが、
10ヵ月後、念願の?パパになったのはまた別の話。
(終わる)


あとがき。

 なんだこりゃ。トイレ関係ないじゃん。ぶっちゃけ最初はもっとその辺を描きたかったんだけどね。
なんかこう、アレだ。疲れてるんだよ、あたし。
ってことで、理樹君がオオカミモードになってます。レピプは犯罪だから絶対しちゃダメだぞ!
何か久々の唯湖さんだなぁ、なんて。
やっぱり動かしやすいね。次の行動が作りやすいから楽です。
さて、次回はパパになった理樹君でも描いてみることにしようかな。では、相坂でした。

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