このメンバーなら全国を狙える。それは買いかぶりすぎかもしれないけど、僕は素直に思ったんだ。
みんな集まれば、どんな困難も打ち破れるんじゃないかって。
そういう意味では、世界も狙えるんじゃないかな。
何にも負けない、何も恐れない、僕らの勇気をもってすれば。


一日で4本UPってどんだけ精力的に体力残してたんだ曲SS『君という名の翼』 music by コブクロ

 一塁線を抜けるボールを謙吾が捕らえ、1アウト。すかさずボールを二塁へ投げダブルプレー。
「普通は二塁から一塁で6・4・3のダブルプレーと相場が決まってるんだが、さすがリトルバスターズ。逆もアリだな」
二塁手の恭介は額の汗を拭うと嬉しそうに微笑む。
チームは日に日に強くなっていく。夏休みももうすぐ終わりを迎えるが、この週末にはリトルバスターズ3回目の試合を
控えているため、熾烈な練習が繰り返されていた。
「しかし熱いな。溶けそうだぜ」
「真人が溶けたらそれはそれで面白そうだけどね」
「そりゃお前、筋肉はラードじゃないから簡単に溶けませんよむしろ邪魔なんで少し削ってくださいと言いたげだなオラァ!」
「そ、そんなこと(出たぁ、すごい言いがかり!)」
と、いつものように展開する日々。三塁から唯湖が『早くしろ!』と急かすが、あくまでマイペースな奴ら。
「じゃ、また後で。みんな再開するよー!」
「おーっ!」
「おーっ、ですっ!」
元気な声がグラウンドに木霊する。始まる守備練習。
みんな泥まみれになりながら、ボールを追いかける。
野球なんてしたことなかった彼らが嘘のように、その横顔は輝いていた。


 「お疲れ、理樹君」
「あぁ、来ヶ谷さん」
練習が終わるのは決まって夕方。今年は秋が来るのが少し早いのか、この時間になると風が涼しく心地よい。
「秋の匂いだな」
「どんな匂いなんだろう。僕分かんないや」
「風情もないな」
「まったくだね」
たはは。と笑いあう。
スポーツドリンクを口に含み、そして嚥下する唯湖。
その横顔に無意識に目が行ってしまう。視線に気付いた唯湖がドリンクを差し出す。
「欲しいのか?間接キスでよければくれてやる」
「…ううん。輝いてるな、って思って」
「なっ…」
思わぬ伏兵の不意打ち。唯湖はたじろぐ。
「い、いきなり何を言い出すんだ少年。スポーツドリンクを変な穴から噴射したらどうするんだ」
「その変な穴がどこかは知らないけどさ」
まだ使ってないタオルで唯湖の汗を拭う理樹。
「ん…」
「身体冷やしたらダメだよ?ね、『唯湖』さん」
「っくぅ…」
もう一人だけの身体じゃないんだから、そう付け加えようとする理樹の顔にタオルの応酬。
「いたいってば」
「知らない。大人しく叩かれろ。そして死ね」
「タオルで死ぬなんてどれだけ僕軟弱者なんだよ」
イジワルっぽい笑顔を浮かべる唯湖の攻撃を受け流しながら、抱きしめる。
「…監督が必要以上に選手と仲良くしちゃダメだぞ、理樹君」
「いいんだ。唯湖さんは大切な人だから。みんな、それは知ってるから」
---君のその笑顔には勝てないな。
風に乗せてささやいてみる。本人には聞こえないように。


 あの修学旅行の一件以来、強くなったリトルバスターズの結束。
その中で一番強くなったのが理樹と唯湖の関係だ。
もう失いたくないという一心で頑張った理樹は、確かに奇跡を起こし、唯湖の命を救った。
他の人間はみんな意識を失っていたから誰に救われたか覚えていないが、唯湖は比較的軽症だったから覚えている。
理樹が一番に見舞いに行ったのも、唯湖だった。
そこで理樹は彼女に思いを伝え、交際が始まった。まだ初々しい二人だが、今では学校の名物になっている。
「気付いたら私の心の中に住み着いていたんだから、君という人間は誠に度し難いな」
「そうかな。僕はただ、そばにいたいと思っただけだから。そう願っただけだから」
「…」
甘いため息。ドキッとする理樹。
「ほら、監督、全員に指示を出さないと、みんな手持ち無沙汰になってるぞ」
照れ隠しにそれぐらいしか言えない唯湖も大概だけど。


 「また、花火したいな」
「ん?」
グラウンドの整備を指示し、率先してやっている理樹の隣に来た唯湖が、静かにささやく。
「…そう言えば、花火もしたね」
このグラウンドでした花火も楽しかった。
何もかもが綺麗な夏の思い出。だけどそれだけじゃない。
「…これからも、思い出はいっぱい作れるよ。僕はずっと、唯湖さんのそばにいるから」
「…プロポーズなのか、そうなのか?」
顔を真っ赤にしてうつむく唯湖。なだめようとした瞬間。
ざばぁ。
ホースの水が噴射され、二人を濡らす。
「なっ!」
「うわっ、冷たいよ…」
「監督がサボってちゃダメだぜ!」
恭介だった。
たちまち水合戦が始まる。
「それそれー!」
「わふーっ!ぶるぶる!」
犬みたいなクド。
「冷てぇ!お返しだっ!」
「なぜ俺にかける!」
いつものようにちゃっかり戦いを始める真人と謙吾。
「…」
日傘で水をガードする美魚。
「お返しだよー♪」
バケツで水を受け止め恭介にかける小毬。
「ポニーテールでガードですヨ!」
ポニーテールでガードして、髪が濡れたとショックを受ける葉留佳。
「ふかーっ!」
驚いて威嚇する鈴。
そして理樹が上手く恭介を引き付け、即座に唯湖が移動、ホースの向きを恭介に変える。
「うわぷっ!」
「やった、大成功だ!」
「ふふっ、まぁざっとこんなものだ」
たった一度の夏、グラウンドをびしょ濡れにしてはしゃぐ彼ら。
気が付くと美魚がカメラを構え、何枚も写真を撮っていた。
戯れる彼ら。そして集合写真を撮ってその日は解散した。


 たくさんの思い出とともに、彼らは歩いていく。
いつかすべてが終わったとき、リトルバスターズはなくなるんだろうか。
それはないな、と首を振ってごまかす理樹。
手にした写真を見ながら素直にそう思っていると。
ブルブル。携帯のバイブレーション。どうやらメールのようだ。

差出人:来ヶ谷 唯湖
題名:無題

本文:退屈だ。女子寮の私の部屋に来い。女装で。

うんそれ無理と返信しておく。すぐ返事が来る。
本文:それ無理とは何だ。おねーさんの命令が聞けない悪い子はお仕置きだ。

 何をする気だか…。
そう思った瞬間だった。
不意に窓が開けられ、そして「んぁ?」と起き上がった真人が暴徒鎮圧用のゴム弾で吹っ飛ばされる。
「ぐはぁ!」
「真人っ!?」
「ちゃららーん、私は闇のエージェントー」
わけの分からんフレーズと共に白煙立ち上る発射筒を持った唯湖が出てくる。
「唯湖さん…」
こめかみを押さえて悔やむ。とんでもない人に愛されていると。
しかし彼女はそんなこと意にも介さず、理樹の手を掴んで走り出す。
「なっ、どこに行くの?」
「いいから黙って付いて来い。助けを呼んだら瞬殺だ」
「…」
逆らわないほうがいい。そう思った瞬間だった。
ドーン。ドーン。バラバラ…。
空を彩る花火。
「あぁ、そうか、今日花火大会だったんだね…」
普通に誘えばいいのに、無理矢理連れ出すぶっきらぼうなところ、相変わらずだなと微笑む。
「バカどもと一緒に見るくらいなら、君を選ぶさ。そのほうがいいだろう」
「…うん」
そして部室棟の屋上に到着し、そこで花火を見る。
「ここは花火会場の直線距離にあるからな」
「誰もいないけど、穴場なのかな」
「さぁな。少なくともナントカと煙は高いところが好きだからな。寮の屋上から見ているんだろう。
確かに、警備員に見つかったら厄介な場所ではあるから、近づかないのだろう。
「つまりここは私と理樹くんだけのラブラブスペースだ。押し倒そうとヒィヒィ言わそうと君の自由だ」
「言わせないよっ」
「むぅ。オクテだな、少年」
こんな美少女が誘っているのに、と心底残念がる唯湖。
「だって。唯湖さん、いざとなると恥ずかしがるから」
「なっ…」
赤面。結局どちらもオクテなのだ。
だから。

「んっ…」
「!!!」
一番大きな花火が空に上がった瞬間、キスをする理樹。脳が思考停止する唯湖。
「な、何を…」
「ほら顔が真っ赤。でも…約束する。幸せにします」
「…あぁ、頼むぞ、未来の旦那さま」
「うん…」
もう一度確認するように、今度は唯湖からキスをする。
「私も約束するよ…君の笑顔の瞬間の隣には、必ず私がいるよ」
「うん」
「だから」
「はいはーい、そこまでですヨー姉御ー♪」
「…!」
振り向くと、いつもの仲間達。
「抜け駆けはよくないぜ、理樹。俺たちもこの花火を楽しませろよ」
「そうですよリキー。綺麗な花火は大好きなのですーっ」
みんなが口々に抗議。その優しい言葉の数々を受けながら、理樹は思う。

----呆れるほど真っ直ぐに 走り抜けた季節を 探してまだ 僕は生きてる
   間違いだらけのあの日々に 落とした涙と答えを 胸いっぱいにかき集めて

   もう一度あの夏空 あの風の向こう側へ
   『君(唯湖)という名の翼』で-----

 夏が終わる頃、彼らはもっと強くなるだろう。
翌日の試合で歴史的大勝利を収めた彼らの笑顔に、曇りはなかった。
(終わり)


あとがき
はい、コブクロさま。ごめんなさい。殴ってください。
そう思えるくらいの支離滅裂な駄作になりました。
ってことでもう限界かな。疲れたよ。楓の苦労がよく分かったよ。

といいながらこの作品。
なんか楓だったら即エロシーンから始まりそうな展開の中で時流版理樹くんはかなり硬派です。
でもそろそろエロも書いてみたいと思うのでしばし待て。待ってください。

ってことで、時流でしたー。

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