この道を走り続ければ、僕らのゴールが見えてくる。
途轍もなく、途方もない課題だけど、僕らはくじけない。
信じられる仲間が、そこには確かにいるから。


青春熱血系リトバス曲SS『RUN』 music by B'z

 カキィーン。白球が乾いた音を立てて空の青に吸い込まれていく。
鈴はその鋭い勢いの白い塊を見上げ、そして遥か後方に見送った後、項垂れた。
「理樹、飛ばしすぎだ」
「あははっ。でも、僕強くなったよね?」
少年、理樹はそう言ってボールより白い歯を見せて笑った。

 夏休みであろうと彼らの練習は続く。一部に授業やテストの成績が悪くて補習になっているメンバーもいるが、
彼らも補習が終わったら終わったで、疲れた身体に鞭打って練習に参加してくれている。
我ながら素晴らしい結束力だ、とキャプテンの理樹自身素直にそう思う。
普通なら絶対あり得ないくらいのチームワーク。下手な部活よりも強い結束力の影には、やはり全員が一つの敵に
立ち向かい、そして勝利する。一つの目標に向かって全速前進する、幼き日のリトルバスターズの姿がそのまま今に
受け継がれているのだろう。鈴のボールを打ち返しながら。理樹は恭介とそのユカイな仲間達が作ってくれたこのチームに
ただ感謝していた。

 そして、とある災難も、彼を強くした。
誰も起こしえない奇跡。それを可能にした理樹の前に、もう敵はいない。
…少なくとも、恭介には絶対勝てそうにないし、体力では真人や謙吾には勝てない。
だけど、どんな困難に直面しても、彼は今までのように背を向けることは無いだろう。
『夢』は、もう終わったのだから。


 守備練習が終了する頃、補習組が合流し、野暮用で外出してた恭介も帰ってきた。
「恭介今日はどこに行ってたの?」
理樹が問う。就職活動ならまだしも、こんな夏休みの土曜日に彼がそんな活動に出るとは思えなかった。
何より、そういった活動(恭介自身はそれを『旅』と呼んでいる)に出る前には必ず言ってくれる恭介だから、きっと
ロクでもない、面白いことを考えてくれたのではないだろうか、理樹はそう踏んだのだ。
と、あっけなくそれは判明する。恭介が手にしていた袋の中身で。
「みんな聞いてくれ。今日は花火をしよう」
「わふーっ、じゃぱにーず、ふぁいやーふらわーですーっ」
「クドリャフカ君、正式な英語ではFire worksだぞ」
情け容赦の無い横からのツッコミに多少凹むクドをスルーして鈴が食いつく。
「きょーすけ、どこでそんなに買ってきた」
「あぁ、前尺玉打ち上げただろ?それをくれた職人の兄弟子が商店街で花火屋やってるって情報得てな。事情話したら安くしてくれた」
なんという値切り方だろう。そんなものまで武器にしてしまうとは。
「なるほど、恭介氏らしい発想だ。で、決行は何時だ?」
「そうだな。もう少し暗くなってからだ。校庭の使用許可は…理樹、お前はいい子だなぁ」
「…っく」
いきなり振られたために戸惑う理樹。しかし恭介がこういう場合、有無を言わさない場合が多い。
「分かった…貰ってくるよ」
「さすが理樹だな。みんなも見習えよ」
「これはただのイビリのような気がしますネ…」
「三枝、何か言ったか?」
「な、なんにも言ってないですヨー!?」
そしてこうなった恭介に下手につっこむと後が怖い。そう考えた葉留佳も、理樹を人柱にすることに賛同した。
「ってことで理樹くん、よろしくなのですよ」
「…うん」
少なくとも教師に話を通せば何とかなる。そう思ってた。


 「ダメです。学び舎でのそういった行動は風紀に反します。第一火の始末が疎かだった場合の危険性を考えてるのかしら」
「…だよね」
教師からは『生徒会の許可を得てくれ。迂闊なことして生徒会の自治権に対する干渉行為だとか言われたくない』と一蹴され、
そして生徒会室へ。しかし運悪くそこには風紀委員長しかおらず、当然頭の固い彼女からいい返事がもらえる勝算など万に一つもなく。
「よって却下。同様の行為を発見した場合即座に貴方達の仲良しチームの活動を正式に禁止の上、部室と偽り占拠している野球部の部室も閉鎖します」
「…」
たかだか花火でそこまでされるいわれは在るのだろうか。
むしろ火の始末にさえ注意すれば問題ない気がするのだが、それすらも容認の範囲には入っていないのだろう。
ただし、理樹にはこれ以上の抵抗は無駄と感じた。無駄骨になることは目に見えている。だから。
「じゃ、二木さんも来たら…どうかな?」
「…なんですって?」
「だから、二木さんも遊びに来るんだよ、花火。そしたら立会いになるし、綺麗で楽しいと思うよ?」
「…」
何を狂った発言を…と一蹴するが、それでも食い下がる。
「じゃ外出許可貰っていいかな。みんなで海とか行ってやってもいいなら」
「…」
それは寮長の管轄区域であり、そこで下手な反論や許可を出せば越権行為になる。自治権の侵害と食い下がられるのは目に見えている。
「はいはい、そこまでそこまで」
「寮長さん」
そこに現れたのは、女子寮の現寮長。おなじみの猫好きさんだ。
「二木さんの発言や発想も間違いないわ。中庭で花火なんてとても容認できないし」
「はい」
「でも寮の中庭とかでするのは、他の寮生に邪魔されかねない。それがイヤなんでしょ?なんとなく分かるもの」
確かに話せる人だった。少なくとも物分りのいい人だから。
そんな彼女が提案する。
「直枝くん、とりあえず条件をつけるけど、それでいいなら」
「…寮長、それは生徒会への自治権侵害とみなしますよ?」
「あら、あたしも生徒会の一員として言ってるの。寮生の行動もその範疇よ。むしろ風紀風紀と凝り固まった思想でどうこうしているあなたとは違うわ」
「…」
そしてその険しい顔を和らげると、微笑みながら言った。
「条件は二木さん立会いね。あなたも日々の激務で疲れてる。だから花火でも見て気持ちを和らげなさい」
「…」
「寮長さん、ありがとうございます!」
理樹の提案は通った。と、その代わりと付け加える寮長。
「はい」
「今度街に出たときでいいから、モンペチを買ってきてくれないかしら。覚えてたらでいいわ。ストック切らしちゃって」
どうせ明日日曜日で何もすること無いでしょ?とウインクする彼女に、今はただ感謝するばかりだった。


 「げげっ、お姉ちゃん…」
葉留佳が露骨に嫌そうな顔をするが、それをスルーする佳奈多。
「なるほど、寮長も考えたものだ。もっとも提案したのはおおよそ理樹君だろう?」
「うん…でも僕独りじゃきっと話通らなかったと思うし、やっぱり思うんだ」
「おーい、打ち上がるぞー!」
恭介の声と共に火蓋を切る花火大会。
打ち上げ花火数発の美しい舞を網膜に焼き付けながら、彼は続ける。

「きっと僕は、いや絶対、僕はみんなに支えられて生きてる。特別なたくさんの出会いに恵まれて。だから、嬉しいんだ」
「…そうか」
そして絡まる手。
「来ヶ谷さん…?」
「私も、今日くらいはそういう気持ちに預かりたいな。いいじゃないか、こんなバカが出来る仲間達に出会えて、初めて嬉しいと思えたんだから」
野球がみんなでするスポーツであるように、リトルバスターズはみんなで集まるからその価値が在る。
花火を振り回しながら走るクドと小毬。それを止めようとする佳奈多とロケット花火水平撃ちをする葉留佳。
そんな彼女らを微笑ましく見つめる美魚。謙吾と真人は恭介指揮の下、打ち上げ花火と噴射式花火を次々着火。
鈴は遠くで線香花火を見つめながらうっとりしている。みんな違う行動を取っているように見えて、楽しむと言う行動は一貫している。
「これが、君が作ったチーム。そして、君が願った世界だよ」
絡まる手が強くなったとき、さらに大きな花火が空中を彩る。
「ヒャッホー!見ろよこの混合打ち上げ花火。完璧だろ!」
「…昇り龍乱れ七変化、ですね」
冷静に解説する美魚の横顔が花火の光で美しく照らされる。
そして静寂の後、残った手持ち花火を全部処理するため全員が全員でバカを始める。
その光景を隔絶された二人だけの世界で見つめる理樹と唯湖。

 「このメンバーなら、どんな無理も出来る。そんな気がするんだ」
「ほう?」
「笑顔のタイミングも、涙腺の作りも、よく似た人たちばかりだから。まるで自分のように大切に出来るし、これからも支えあえる」
「そうか。それなら、私もそんな君の隣で、もうしばらくこのバカな光景を楽しませてもらうとするよ」
手は次第に腕に絡まる。
「来ヶ谷さんっ…胸が…」
「むぅ。いいじゃないか。何が不満なんだ」
「ねーねーゆいちゃんも花火…あ、ご、ごめんなさぃ…」
「ほら小毬さんが変な勘違いしたっ!」
「無視しろ、勘違いさせろ」
「そんな無茶な!」
見てはいけないものを見てしまった子どものように逃げ出す小毬の背を見送りながら、無理を言う姉御。

 「時の流れとは滑稽だな。顔見知り程度だった人間達が、ここまで濃い関係になれるなんて」
「そうだね…でも。僕はそれが嬉しい。だって」

だって、死ぬなら一人だけど、生きるなら一人じゃない。
彼らの周りに、当分静寂は訪れないだろう。
今はただ、この幸せなる瞬間に感謝を。


----荒野を走れ どこまでも 冗談を飛ばしながらも
   歌えるだけ歌おう 見るもの全部 中々ないよどの瞬間も----

(終わり)


あとがき
B'zです。RUNです。よく出来た腕時計で測るもんじゃないです。
ってことで、佳奈多さんがSSに初登場。
ってか、事故で奇跡を起こしても夏休みの間殆どが入院しているはずだから、冒頭の入り方は多少無理が
なくもないけど、やっぱりあくまでも『リトルバスターズの夏休み』を書いてみたかったから。
そういう意味では結構時系列を考えて書いてるんだなぁ、と自分の本能に驚くばかり。


相変わらず文才はないけどな!


ってことでB'zファンの皆様ごめんなさい。
次回は何をしてみようかな。楓みたいに投票形式で決めようかしら。
時流でした。

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