※この作品は相坂の原作無視した勝手な設定で殴り書きしたSSです。
 当然ながら時系列なんて完全に無視しているので、原作に忠実でなきゃ!という厳格な方は
 早々に回れ右かもしくは音速の壁を突き破ってください。



 「来ヶ谷さん」
「ん」
「好きな子が、いたんだ」
「断罪してやる」
「えっ、うわっ!」
直後、僕の体は宙を舞った。


何となく考え付いた殴り書きSS『出会いは偶然に、再会は必然に』

 「いきなり酷いじゃないか」
お茶会の最中、ふと数式を書いていたルーズリーフを見ながら思い出したことがあった。
今日も今日とて僕は来ヶ谷さんに見つかり、そしてお茶会へ。もちろん拒否権なんてない。
あったとして、来ヶ谷さんなら一発でローゼン内閣の閣議決定や国連安保理の決定ですら
覆してしまいそうで怖い。そんな人を相手にしたらまともに勝てるとは思わないので、周りがどれだけ
僕を敗北主義者と罵ろうが、やはりここは長いものには巻かれろ、という判断をしたのだ。
そして、その思い出したこととは。
「酷いのはキミのほうだ、というよりいきなり何を言い出しやがる。ほらみろ、お茶が零れたではないか」
正確には零れたじゃなくて来ヶ谷さんが噴き出したんだけどね。
ただ、それだけパンチ力はあったんだろう。納得。
「大体、好きな子がいたとはどういうことだ。昔の女がこの学校に居たのか?やけぼっくいに火が付いたって奴か?」
「よく分からないけど、そうじゃないよ。ふと、昔のことをね」
「…キミは年寄りか?」
ますます度し難い。と言いたそうな顔だけど、仕方がない。
なんとなく、思い出したんだ。

 「昔ね、そう、かなり昔。まだ両親が死ぬ前だった」
「そうか。幼女にハァハァしてたんだな。やはり私と理樹君は似通っている。ここは一つロリについてゆるりと語り合おう」
「合わないから」
「…残念だ」
至極残念そうな顔をしないでよ…また来ヶ谷さんペースにはめられそうになる。
「んと、話、戻していいかな?」
「ダメだ。第一今の彼女は私だろう?なんで今更昔の女の話をするんだ?」
「別にその子とは何もなかったんだけどね…」
「…」
ルーズリーフを見ながら思い出したこと。
そして、あの淡い恋の結末。


 「僕ね、昔から算数とか、全然ダメだったんだ」
「ふむ。それは見れば分かる。まぁ基礎は出来ているが、確かにお世辞にも得意とは言えないな」
「辛らつな評価だね…」
我が彼女ながらこのキツいお叱り。もっと数学勉強しなきゃな。
「まったくだ。夜の勉強ばっかり覚えやがって。そんなのじゃ優秀な子どもは育てられないぞ?」
「うぐっ…てかもうそこまで考えてるの?」
「はっはっは。まぁなに、家族計画は早めに練っておかねばな。そうすれば後々出費や不勉強に泣かずに済む」
来ヶ谷さんらしい発想だ。
しかしまた来ヶ谷さんペースにはまっている。とりあえず修正しなきゃ。
「話戻していいかな」
「ダメだ」
「お願いだよ…」
「聞きたくないんだ」
「…」
どうやら、妨害は意図的に行っているらしい。
「どんなことがあれ、今の彼女は私であり、その女ではない」
「…ヤキモチ?」
間違いない、この人ヤキモチ妬いてるよ。
「違う。教育だ」
「どのヘンが?」
「…この辺だ」
ボコッ。なぜパンチが来るんだろ。
「痛いよ」
「ええいうるさい黙れこのショタフェイス版石田○一」
僕をジゴロ野郎とでも言いたいのだろうか。不倫は文化じゃないけどね。
「大体なんで昔の女の話をする必要がある?私のおっぱいが不満か?つるぺたはにゃんなのか?」
「く、来ヶ谷さんが壊れた…」
「ぶち殺すぞヘタレ」
「ご、ごめんなさい」
怒られるのもよく分からないけどとりあえず謝っておくとして。
「でもね、聞いて欲しいんだ。なんか、来ヶ谷さんに良く似た女の子の話なんだ」
「…私に?」
さっぱり分からん。言いながらも耳を傾けてくれるようだ。


 「僕ね、昔から算数とか全然ダメで、テストの点数なんて母さんが気を利かせて父さんの目に付かないところに隠すくらいだったんだ」
「相当な落第生だな。お父上も草葉の陰でさぞ嘆いておられることだろう」
「うっ…」
今はそうでもないけどね。苦手なのは変わらないけどさ。
「だからある日、担任の先生がクラスメイトの女の子を紹介してくれたんだ。名前は覚えてないけど、算数が得意な子」
「ふむ。その子に手取り足取り○○コ取り、しっぽりと愛のある算数教育を受けたわけだな」
「すぐにそっちに持っていくそのオヤジっぽい性格直そうよ…」
「何、これが私スタイルだ」
「…」
疲れる。何でさわりの部分でこんなに疲れてるんだろう僕。もう帰りたい。
「今帰りたいとか思っただろう?却下だ。ここまできたら全部ゲロっていけ」
「なんか乗り気なのか邪魔したいのか分からないよ…」
本当に、分からない人だ。だから好きになったんだけど。
まぁそんなノロケはどうでもいいとして。
「その子も、来ヶ谷さんに似ていた。髪が長くて、クールで、なんかかっこよくて、男子からは人気だったな」
「…私は男子から人気なのか?」
自覚ないのかな、この人。
因みに僕は来ヶ谷さんと正式に交際を始めた秋口くらいから主に男子生徒と一部女子生徒から攻撃されている。
…来ヶ谷親衛隊なる組織から血塗りの手紙を送られたりとか、精巧に出来た『犬神家』フィギュアを送られたりとか。
…僕に逆さになって湖に沈め、という暗示なのだろうか。最近それが怖い。
「自覚ないのは凄いことだと思うよ…」
「ふむ、私が鈍感とでもいいたそうだな。時に理樹君。びんかんサラリーマンって知ってるか?」
「知らないよそんなアニメ専門チャンネルで流れてそうなコアな番組…」
「アニメってのは知っていたのか」
「アニメなの!?」

あらすじ:
センサイボディにあるとある大手企業に勤める商社マン、敏感一郎は、指差されるだけで感じてしまう敏感体質だった!
まして触られたら絶頂のあまりパンツがえげつないことになるこの男に、今日も営業部長・鬼瓦の指差しが飛ぶのだった。
お茶の間を沸かせた、あの人気漫画(週間少年ステップ好評連載中)が待望のアニメ化!


 「ってそんなあらすじいらないよっ!」
「なに、ファンサービスだ」
「ますますいらないよっ!」
あぁもうダメだこの人、存在自体がネタだ…。
「何か今ものすごく失敬なことを考えなかったか?」
「ううん、全然」
「…まぁいい、続けたまえ」
「うん」
あぁ、やっと続きだよ…。
もう話す元気残ってないんだけど…。

 「でね、担任の先生がその子にお願いして、僕の算数のコーチになってくれたんだ」
「ふむ」
「でも、最初の頃は受け入れてもらえなかった。その女の子は凄く無口で、数式を指差すだけ」
「無責任だな」
「うん」
「まるで種付けするだけして妊娠に気付かないどこかの誰かのようだ」
「誰だよそれっ!」
てか来ヶ谷さん、それ本当なら僕今ものすごく寿命縮んだんだけど…。
「冗談だ。続けたまえ」
「…帰るよ?」
「…冗談が通じない子は嫌いだぞ」
「うぐっ」
惚れた弱みかな。こう言われるとどうも抵抗できないや。
「まぁそれはいいとして。その後、初めて口を開いた言葉が『バカだな、キミ』だったんだ」
「…初めての会話がそれとは、流石に理樹君に同情せざるを得ないな」
「でしょ」
「うむ。おねーさんがおっぱいで慰めてやろう」
「いらないから」
「うむ。ではしばらく理樹君はおっぱい禁止な」
「それはもっと困るから!」
「ワガママな奴だ。死ねばいいのに」
「酷いよっ!」
あぁ、何この夫婦漫才。義之くんと音姫さんじゃないんだから…。
…夫婦漫才?結婚してたっけ僕たち。
「ほらさっさと話を進めろ。時間は有限なんだ」
「それをあなたが言いますか」
「ええいうるさい黙れこのアスホールが」
「酷いってば!」
あぁもう、僕いい加減帰りたくなってきた・・・。


 「で、その子にバカって言われたくないから頑張ったんだ。毎日。何だかんだで楽しかったんだ、彼女との勉強」
「ご褒美は口でしてもらったのか?それとも手か?」
「なんでそっちに持っていくのさ!」
「理樹君、昨夜私の部屋に忍び込んでアレの日だからダメという私に『なら口と胸で』と言った割には態度がでかいな」
「ぐっ…」
うぅ、そんな率直な言い方してないけど、真実だから困るよ…。
あぁっ、石投げないで!(石投げたい人はWEB拍手で『理樹死ね!氏ねじゃなくて死ね@投石』と書いて送ってね♪)
「もう僕疲れたからこれで終わり」
「むぅ。ここまで私の胸を高ぶらせておきながらこの体たらくか。よほど死にたいらしいな」
「何でそうなるんだよっ!」
ツッコミもスルーされるんだから漫才じゃないよね、これ。
ど突き漫才なら僕フルボッコにされるからまず勝ち目ないし(何に勝つ気だ
「よって最後まで話せ。さもなくば死」
「なら真面目に聞いてよ…」
僕の心からのお願いはあっさりスルーだった。
「それで、ある日算数の小テストの成績が良かったから、先生に褒められて、嬉しくなって彼女に報告したんだ」
「…」
「そしたら、喜んでくれて、これからもよろしくね、ってお願いしたら『仕方ない奴だ、面倒見てやる』って言ってくれたんだ」
「…」
「聞いてる?」
「いや、黙ってろとキミが言ったからリアクションなしで黙っていてやったんだ」
「…」
何このWindows98並みの融通の利かなさ(Win98ユーザーさんごめんなさい…。
「はっはっは。分かった、適度に合いの手は入れてやるから続けろ。さもなくば」
「…もういい」
「えっ」
「来ヶ谷さん、結局僕の話聞いてくれないし、聞く気ないんだよね」
「…何をそんなに怒っているんだ」
「別に怒ってないよ」
怒ってない。別に腹も立ててない。
もちろん、全面的に僕が悪いんだ。昔好きだった子の話なんて、するのが失礼だ。
だけど、その人が来ヶ谷さんにとても似ていて、なんか、懐かしくなって話してみたかっただけなのに。
それなのに。
「僕、もう今日は帰る」
「…」


 不意に、後ろから抱き締められる。
「離してよ」
「ダメだ」
「離せってば!」
「うるさい」
「っ」
抱き締める力が強くなる。胸が、背中に当たる。
「私には、ヤキモチという感情が良く分からないんだ。だけど、昔の女の話をする理樹君を見て、気付いたんだ」
「あぁ、ヤキモチとはこんな感情なのか、と。胸を締め付けられて、意地悪をしたくなる気持ちなんだ、と」
「…」
やっぱり僕は最低だ。
自分のエゴで彼女を傷つけて、それでも笑顔と冗談交じりで取り繕ってくれた彼女にこんな思いさせて。
「…」
「理樹君。私のことは好きか?」
「うん、愛してる」
「なら、もう昔の話なんていいじゃないか。今の私を骨の髄まで愛してくれ」
「うん…」
でも。
この感じ、何でだろう、懐かしい。
あぁ、そうだ。確か彼女も。

 「その女の子ね、最後は夏休みの始まりに転校しちゃったんだ。ご両親の都合で、海外に」
「…」
「ご褒美に、一緒に海に行こうって約束してた。一緒に水着を選びに行こうって。子どもなのに、可笑しいよね」
「…」
でも、その直後に彼女は遠くに行っちゃったんだ。
幻のデート。よく覚えていないけど、僕もそんな経験をつい最近した気がする。
僕っていつもそうだ。身勝手なのかな、大事なことは忘れていくのに、いらないことばかり覚えてる。
「その直後に、両親が死んで、色々あって、どこかに忘れてた。だけど、唯湖さんに出会って思い出したんだ」
「あの頃、なんで算数をあんな必死に勉強したのか。結局好きだったんだ、その子が」
「今僕が唯湖さんを愛しているのと同じように」

 懐かしい、過去の記憶。
それは、誰もが共通に持っている、ノスタルジックな物語。


 私にも、その話が何となくだけど覚えがあって滑稽だった。
小学5年生くらいだっただろうか。クラスに算数がてんでダメな少年が居た。名前は覚えていない。
そんな彼を見かねて、ある日担任が私に言ったんだ。
『彼の勉強をみてやってくれ』と。
そんなもの担任がするべきことだし、私は面倒くさがった。
第一他人の勉強を見てやるほど私は当時お人よしではなかったし、別にクラスメイトと関わる気はなかった。
父と母の仕事の関係でもうすぐイギリスに引っ越す予定があったし、ヘンな情が移るのもイヤだった。
だが担任も必死だった。よほど自分の生徒から落ちこぼれは出したくなかったのだろう。
その後なんと言われたかまでは覚えていないが、仕方なく私は彼の勉強を見ることになった。

 最初のうちは要領の悪さゆえにバカ呼ばわりしたこともあったし、腹立たしかった。
なんでこんな基礎的な数式も分からないんだ?と無言で数式を指しながら教えたこともあった。
時間の無駄だ、そう思いながらも、何故か私は彼の為に時間を割いた。
いつしか放課後の教室は、私の居場所になった。
今思えば、教師の入れ知恵もあったのかもしれない。
私と彼を接触させて、私に友達を作ろうとしたのだろう。
それくらい、私は孤立していた。友達なんか要らなかったから。
だけど彼の直向さに惹かれて、少しずつ力を入れる自分も居たのは事実だ。
特製のテストを作って、彼に解かせたり、分からないことは事細かに。
そんなある日、彼が小テストで好成績を収め、学期末のテストでは学級で2番目の成績を残したことが嬉しくて、
これまでの努力が実を結んだことが我ながら似合わないと知りながらも嬉しかった。
だから、彼に約束したんだ。
ご褒美に、一緒に海に行こうって。
移動の予定は2学期の中ごろだったから、夏休みは勉強と遊びに費やそう、と。
夏休み初日に水着を見に行こうとも約束していた。

 だけど、それは叶わなかった。
仕事の予定が早まり、終業式の終わった昼のフライトで、私たち一家はイギリスに旅立った。
彼に、お別れを言えないまま。
日本に帰ってきてからは、退屈な学校生活を孤独に過ごし、そしてこの学園に入り、理樹君に出会った。
何となく、昔の算数を教えた男の子に良く似た彼が最初は懐かしかったが、其れゆえだろう、保護欲から勉強を
教えてやりたいと思うようになったのは。


 答えは、案外身近なところにある。
算数や数学がプロセスを大切にするが、人の一生は気が付かないうちにそのプロセスが完成している場合もある。
そして、僕と唯湖さんが導き出した答えは。
「そうか、あのときの少年は…」
「なら、あのときの子は…」
キミ、だったんだね。
知らないうちに再会し、知らないうちに愛を育み、そして、知らないうちにこうして一緒に居ることを誓い合った。
運命だったんだろう、最初から。
「確かに、その子、凄い難しい漢字の苗字だった。そっか、来ヶ谷、って読むんだって思ってた」
「私も、頼りない男の子だと思ってた。頼りない=リキイズムだと覚えていたよ」
「なんだよそのネーミングっ」
「はっはっは。冗談だ」
抱き締める力が、強くなり、そして。
「神様は信じちゃいないが、粋な計らいをしてくれるものだな」
「ん?」
「こうして時間を越えた愛。まるで小説のようではないか。西園女史には内緒だぞ。本にされたらかなわない」
「…そうだね」
ドラマやバラエティー番組のネタにされそうだけど、確かにお互いがこれまで乗り越えてきたものがあり、そして。
「愛は国境も時間も越える、偉人達の言葉を私たちが証明してしまったんだな。数学のように」
「うん」
「これからは、もうどこにも行かないぞ。来年の夏こそ、二人きりで、海に行こうな」
「…まず、冬にスキーかな?」
「それだけでいいのか?もうおねーさんどこへでも連れまわしてやるぞ」
「連れまわすって…」
秋の風に乗って舞い降りてきた紅葉が、ルーズリーフに落ちる頃、僕はふと思ったんだ。
こんな愛の形だって、立派な生きる意味、生きてる証なんだ、って。
(おわり)


あとがき

すごい薄っぺらいけど、殴り書きでした。後々加筆修正するかも。
もしもこんなことがあったら、的なお話で書いてみました。
昔理樹くんとゆいちゃんが同じ小学校で、リトルバスターズが編成される前のお話という設定で、
時系列をかなり崩してから書いてみましたが、いかがでしたでしょうか。
強い絆で結ばれた相坂版のこのカップルですから、こんなことがあっても何ら不思議がないというか、
むしろ、前世からというより1万年と2000年前からこんな感じじゃないかな、なんて思えてきます。
何より理樹の昔に触れた作品がちょっと少なく感じたので、思わず…ね。

次回もまたこんな感じのSSでお会いできたら光栄です。相坂でした。
…そこ、ご都合主義で稚拙って言わない!分かってるんだから!笑

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