最初は、夢だと思ったんだ。
そんなことがあってはいけない、あってたまるか。
そう思っていたけど、これも、いいかな、なんて。

「…寝る前に、ご本を読んでください…『お父さん』…」
「え、ちょ、ちょっと?」
今では、それもいい思い出さ。←約一名開き直り中。


なんと美魚さんまで甘えんぼ幼児退行しましたSS『どこまでも四面楚歌』

 「え、えーと、よく状況が読めないのDEATHが」
「理樹君日本語ヘンだぞ」
「…」
冗談きついぜリズ、と言った瞬間、意識が空中を舞ったのは放っておくとして。
理樹は戸惑っていた。
完璧な活字中毒、甘えとは無縁、鋭いツッコミ、そして物静かで通っていたあの西園美魚が。
「?」
「ぐはぁ」
突然理樹を『お父さん』呼ばわりし、小首を傾げて本を読んでくれるのを待っているのだから。
ただいま午後10時。一応寮の消灯時間とはなっているが、この寮で消灯時間を守っているものなど皆無。
寮長もおおらかな人なので、他の寮生に迷惑さえ掛けなければ電気を消した後も友情を深め合う行動は
黙認してくれている。同じ高校生ながら1年違うだけでこうも変わるものか、と感心していた矢先。
「おとーさんって、理樹君は私のダーリンだ」
「違う、あたしのハニーだ」
理樹は女役ですか。
「違います。お父さんはお父さんです。そして、今日はこの本を読んでもらいます」
手にしていた本は…しかも絵本か。絶対狙ってるだろ、とツッコミが入りそうな選択だ。
「お父さんの声で読んで欲しい…」
赤ずきんちゃんを?狼の声しか出ない気がする。
「ぐへへへへ、今日はどの子から食べちゃおうかなぁ」
ほら開き直るとバカ理樹が出てくる。
「というのは冗談で…ってえーと、鈴、なんでぱんつ脱いでるの?」
「え、食べるんじゃないのか?」
あぁ、もうバカが増えて仕方がない。と呆れる間もなく、唯湖も脱ぎだす。
「暑いから脱ぐのら」
「いやエアコンガンガンだからどっかの誰かのワガママで」
どこかの誰かとは言うまでもなく唯湖だ。
「いいじゃないか、この部屋の所有者は私だ」
「いや、学園だと思う」
「ええいうるさい黙れこの神聖ロリータ帝国初代皇帝」
「絶対不名誉な皇帝だよねその人!」
狙ってロリになったわけじゃない。何故かみんなが甘えんぼ化してしまっているだけだ。
その弁解もむなしく、今夜もこの甘えんぼたちの子守が始まるのでした。
…約一名、意外なるダークホースを交えて。


 「というわけで、赤ずきんちゃんは幸せに暮らしましたとさ…っと、もう寝てるや」
「すー…」
いつの間にかベッドに横になっていた唯湖と美魚はぐっすり眠っていた。
よほど理樹の朗読が上手だったために違いない。とはいえ部屋の隅で横になっている鈴を放っておくのは可哀想だ。
「鈴、ベッドに行こうよ」
「…するのか?」
「いや何を」
鈴はどうやら発情期でも迎えたのだろうか。
「ねこのすることは一つ、にゃんにゃんだ」
「いやそこから離れようよ…健全な学生として」
その健全な学生が夕方多目的教室で非健全な行動を取っていたわけですが。
バカ理樹だったからとは言わせないぞ。
「しかしみおまで甘えんぼになるとは思わなかったぞ」
「一応自覚はあるんだね、鈴も」
その素朴な疑問はあっさり返される。
「あたしは理樹が好きなだけだ。だから理樹にべったりなんだ。ゾッコンLOVEというらしい」
「絶対日本語間違えてるよそれ…」
おおかた恭介が教え込んだに違いない。しかしこのまま放っておくわけにもいかない。
「唯湖さんは正式な彼女だとして」
「彼女はあたしだ。くるがやは子どもを産む機械だ。みおは知らん」
「鈴、今全世界の来ヶ谷って苗字の人を敵に回したよ…」
「なんだとっ」
どれだけいるかは分からないが。
「だが大丈夫だ。愛ゆえに」
「それも恭介から仕込まれてるよね。哀ゆえに」
いいからさっさと寝ろと。
理樹は部屋の隅にあった布団を持ってくる。詳しい事情は話さずに寮長さんにお願いしたものだ。
『まぁいいけど…まさか泊り込みとかするんじゃないでしょうね?』
その質問に乾いた笑しか出来なかった時点でもうバレバレだとは思うが。
「ほら鈴、寝るよ」
「…うん」
そして顔を真っ赤にしながら、素っ裸になる。
「いや脱がなくていいから」
「理樹も脱げ。ふーふのいとなみだ」
「…」
恭介、どうやら僕は、恭介を越えなきゃいけないみたいだね。もっぱら拳で。
理樹はこみ上げてくるちょっぴりの怒りを胸に、とりあえず鈴を襲っておくことにした。
「にゃぁっ!」
「ほら、可愛い牝猫さん、まずはちゅーだよ」
「んちゅっ…んむぅっ…」
そのまま、猫を弄ぶだけ弄んだ理樹なのだった。


 「ふぅっ、ふぅっ…」
肩で息をしている鈴を抱き締めると、理樹も呼吸を整える。
「理樹、大好きだ…」
「僕も大好きだよ、鈴」
ぎゅっ、と腕に力が入る。鈴とて女の子だから、甘くて優しい匂いがする。それが理樹のアドレナリンを、
別の物質に変えて沈静化させる。
「理樹はあたしのお嫁さんだ。幸せにしてやるからついてこい」
「え、僕男…」
と、次の瞬間背中に殺気を感じて回避する。
「っち、逃したか」
「って唯湖さんっ!?」
さっきまでぐっすりだった唯湖が起きていた。手には刀。
「理樹君の浮気者。私を差し置いて…」
「お前に魅力がないだけだ、くるがや」
「私は直枝だもんっ!」
「理樹は棗になるんだっ!」
おっと、ここで思わぬバトル勃発か?
「多目的室でとどめを刺していれば…」
「それは私の台詞だ。理樹君は私だけのものだからな」
「ふかーっ!」
「がるるるる…」
あれ、女狐唯湖さんがわんわん化してる気がする。あ、イヌ科だったね、狐。
そんな唯湖を挑発するように言う鈴。
「えっちは理樹のほうから誘ったんだぞ。お前はもう飽きられたんだ」
「っっっ!違うもんっ!理樹君はそんなことしないもんっ!」
「あぁっ、ふたりともっ!」
さて部屋が壊れそうな乱闘が始まりました。そこで、目を覚ます美魚。
「…うるさぃです…」
「あ、西園さんっ!助けてっ!」
もう溺れるものは藁をも掴むって感じで美魚に泣きつく情けなさ。
しかしイマイチ空気が読めていない美魚は、さらに爆弾をばら撒く。

「お父さんを困らせちゃダメです。あ、それから、寝起きなのでご本読んでください」
手には『よいこの性教育』。あぁどこから出したんだか。というよりそんな本を持ってる娘なら勘当だね。
「我慢できないなら、私で実践していいですよ、お父さん」
「「キサマも敵かーっ!!」」
「あぁ、もう…」
時計は、ようやく午前5時。日が昇り始める頃、うるさいという隣室からの苦情を知らせに来た寮長がとめに入るまで、
理樹を無視した戦いが続いたのだった。
「で、直枝くん。後の処理はお願いね」
「…あれ、ツッコミなしですかっ!?」
逆にそのほうが嬉しいと思うけど。


 「さぁ朝だ。理樹君デートに行くぞ」
あれから少しだけの睡眠時間をもらえたが、8時に唯湖に叩き起こされる。
「約束しただろうっ!デートデートっ!」
「うぅ…」
甘えんぼ化したとはいえ、肉体は大人の女なのだから(下手な女の子より体が成熟してるが)、
上でピョンピョン跳ばれたら潰れそうだ。
「理樹君、私のお尻で幸せになってるんだな」
「なってないからっ!」
「…むぅっ」
頬を膨らませて拗ねる唯湖に不覚にも萌えてしまう。が、首を横に振って自分を取り戻す。
「う、うん、行くからちょっと休ませて、昨夜色々あってさ…」
「問答無用」
「手厳しいな…」
可愛い上に容赦ない。布団は剥ぎ取られる。
と、真っ赤になって硬直する唯湖。
「あれ、唯湖さん?」
「…ゾウさんがマンモスになってる」
「…うっ」
そんな生娘じゃないんだから、とツッコミたくなるが次の瞬間ムスコごと潰される予感がしたので、
とりあえずなだめることにした。
「唯湖さんゴメンっ。これは男の…」
「わかってる。だから溜まった悪いの、私が吸い出してやる」
パンツにかかる唯湖の白くて細い指。あわてて止める。
「だ、ダメだよっ!」
「なんでだ?彼女なのだから彼氏の処理は大事な務めだ。さあ、あさっぷあさっぷ」
「こればっかりはあさっぷ出来ません!」
結果、拗ねる唯湖を引き剥がすのに2時間半を要した(しかも最後は吸われた。ナニを?


 が、天気はあいにくの空模様。
窓を叩く雨音が少しずつ強くなり始めていた。
「これじゃ外出できない…」
「…まぁほら、来週もあるしさ」
「…今がいいんだもん」
「え?」
聞き返すと恥ずかしさで顔を真っ赤にした唯湖がぐーぱんちしてくる。もちろん痛くはない。
「今がいいんだもんっ。理樹君とでーとするのは今がいいんだもんっ!」
「…」
こう言われて悪い気はしないが、出来たらこんな天気の日は勘弁して欲しい。
と、いいことを思いつく理樹。
「じゃこうしよう。デートは予定通りいく」
「…雨だよ?」
訝しがる唯湖に告げる。
「行きは普通のビニールの傘を差していこう。それで、可愛い傘を捜しに街に行こう。こんな感じなら、文句ないよね?」
「…理樹君」
ちゃんと考えてくれる彼氏に、ついうっとりする唯湖。頬擦りが始まる。
「くすぐったいよ」
「理樹君、もう何て可愛いんだ…。おねーさん萌えちゃったよ。だから…」
「うん」
「とりあえず白いワンピースでスケスケプレイとしゃれ込もう」
「ダメだってば」
スパーン。理樹がつっこむ前に横から強烈なハリセン。
美魚だった。
「ダメです。何より、一人だけ抜け駆けはずるいです。私も、直枝さんと一緒に歩きたいです」
どうやら推察するに、美魚の場合は夜に甘えんぼ化するようだ。
理樹は思い出す。前日の教室では確かに『直枝さん』だったから。
…日が沈んでから日が昇るまで、一晩のお父さんといった感じなのだろう。
「デートは前から理樹君と話していた。後から一人勝ちしようなんて魂胆のほうがずるいぞ」
「なんと言われようと構いません。勝てば官軍、です」
中々この場を形容したことわざで、二人のにらみ合いが始まる。
なお、直後に空気の読めない鈴が『理樹はあたしとお部屋で猫さんごっこするんだ。にゃんにゃん』と
突然甘え始めたためまたも三つ巴の戦いとなり、寮長の止めが入るまで続いた。
「てか、僕どうなるんだろう…日曜くらいゆっくりさせてよ…」
時計は既に11時半。一日の半分を無駄にした理樹は、ため息しか出なかった。
(つづく?)


あとがき

ス マ ン カ ッ タ !
美魚さんのあまりの変貌ぶりに現実逃避してたからUP出来なんだ。
それをやっと今日UPすることができました。
さてさて、夜になると甘えんぼになる美魚さん。おやぁ、美鳥じゃなくて、別の美魚さんなのかな。
なんて無粋なツッコミはナシです。もともとこの世界が原作を無視したパラレルワールドなんですから(汗
だけど夜にだけ娘属性になるだけで、普段は美魚の人格のまま甘えんぼ属性が付加されます。
その口調と態度のギャップに萌えていただけたら幸いです。時流でした。

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