もう戻れない距離、もう戻れない場所、時間だと知っているから。
目に浮かぶこの思い出を、振り払って先に進もう。道の先、彼はいる?いや、そんな保証は欲しくない。
なくていいんだ。あの人は、そんな人。風のように、とても自由で、優しい人。
さよなら。


小毬がちょっとアンニュイなSS『轍』


 カシャッ。
小春日和とは秋の穏やかな晴れの日をさすんだと最近知ったけど、そんな小春日和の昼下がりには到底似つかわしくない、
機械音が周囲に響く。だけど、その喧騒に完全に隠れてしまって、誰もその音に見向きもしない。
忙しいのか、それとも単に余裕が無いのか。
ファインダーから目を離して、もう一度回りを見渡して、もう一度シャッターを切る。
カシャッ。
だけど、誰も見向きもしない。
あるカップルはケンカしながら歩く。ある人は花に目を細めて歩く。ある老人は息子か孫かに杖になってもらいながら歩く。
歩き去る彼らには、もう一度会うことが出来る?その可能性は絶対的に低い。
忘れてしまうんだ。どんなに大好きな人でも、いつの間にかその輪郭は消えてなくなってしまっていて。
「…」
それなのに、たった一度すれ違った彼らを覚えていることが、今の私には出来る?
「…」
ファインダーから目を離し、蒼く高い空を見上げる。
このカメラのレンズで、成層圏…ストラトスフィア…まで達することの出来るものはあるのだろうか。
仮に天国があるとして、そこは、成層圏の手前にあるのか、その先にあるのか。
今それを知る必要はないし、咎人はその世界に到達など到底出来ないだろう。
10-22mmレンズ。人の目では到底叶わない、とても近い距離から、とても広い世界が写せる。
私の目も、こんなに広ければいいのに。いろんなものを、見ることが出来ればいいのに。
この身体にとても不釣合いな、大きなカメラを肩に提げると、更に似合わないため息を吐いたのだった。

 恭介さんがいなくなって、もう4年目を迎えようとしている。
今よりもっと心が未熟だった私は、最初それを受け入れられなくて、自暴自棄になっていたっけ。
彼のいない、活気の無いリトルバスターズ。
…卒業と同時に彼は、自分探しに行って来る!とだけ言い残して、どっかに消えてしまったのだ。
今の精神状態の私なら、このアホリーダー!と罵り、罵倒しながらキックが出来る自信がある。
それくらい、そのアホリーダーは何も考えず、風の向くまま気の向くまま、気が付いたらどこかに去っていた。
卒業前夜、あんなに、強烈な告白をして、私の処女を奪っておきながら、だ。
「童貞卒業したかっただけちゃうんかぁ…」
なんてどこかのボケボケ軍師みたいな言い回しでのらくらと言ってみる。え?中の人?何のこと?
便りが無いのはいい便りなんて言うけれど、やっぱり心配なものは心配なのだ。
理樹君からは『恭介のことだし、多分死んでないと思うよ……たぶん』と慰めなのか追い討ちなのかいまいち分からないフォローを頂き、
ゆいちゃんからは『とりあえずゆいちゃんと呼ぶのを辞めるところから始めるんだ。そうすれば道は開かれる』とお説教され。
大体名前はその人だけのものなんだから、大事にしないほうが私としては罪だと思う。
ゆいちゃんがそんな感じで話をはぐらかした、イコール。
「ゆいちゃんでも、解決できないかぁ」
行動の早さと可変では、明らかにゆいちゃんの一歩先を行っている感じがあったし、難しい話なんだろう。
無事であることを祈るしか、私には出来ないのだ。
「…」
人生で初の、たった一度の恋と処女は、人生でたった一夜の悲しい思い出として踏みにじられました。
もう、とんでもない辱めを受けた私は、かなりハジけた状態で残りの学生生活を送り、大学に進学する意欲もなくし、
気が付いたら社会人になり、初めてのボーナスを叩いて、カメラなんざ買っていた。
そして、時間を見つけたら小旅行に出る。
もしかしたら、その旅先で恭介さんに会えるんじゃないか、なんて考えたのだ。
「…」
だけど、今日も不発の絶賛大スルー状態。餌に釣られもしないあの(21)。
山が少しずつ紅葉の兆しを見せ始めるのを遠目に、後ろ髪を引かれる思いで、私はカメラを仕舞ったのだった。



 これまたローンで買った、白のワーゲン・ビートル。
ドイツ車って本当に堅くて重い。燃費も決して良くはない。あの相坂さんが轢かれた時はドイツ車のほうが大破完全沈黙だったけど。
どんな強力なATフィールドを張ってるんだ、と疑問を抱きながら、AT(こっちはオートマチックのほうのAT)のギアをセカンドに入れ、
坂道をエンジンブレーキだけで下っていく。
広大な、山の景色。戦国時代にはここに山城があり、篭城側の一族郎党を皆殺しにするくらいの、血なまぐさい城攻めがあったらしい。
さっき立ち寄った、その城の跡地、本当に何も残っていない、石垣だけの跡地に掲げられていた看板でそれを知った。
山城はその石垣の場所以外にも何箇所か防衛施設があったらしく、落城後は地元民にも忘れ去られ、歴史に埋もれていった。
皮肉にもこの城が思い出されたのは、大河ドラマの主人公がその城攻めで、攻撃側として参加し初の戦功を挙げたため。
実際に、その主人公を偲ぶ花やお菓子がいっぱい置いてあったっけ。コスプレして写真を撮っている痛い子もいて閉口したけど。
人間の身勝手を本当にイヤに思う。
そんな身勝手さの中に、この城をまた冷たい土の中に埋めてしまうほどの、雄大なる時間と自然。私たちは、到底それに勝てそうに無い。
そこで朽ち果てた兵隊さんたちは、今頃、生まれ変わってどこかで暮らしているかな?
そんなことを考えると、自然と笑みが零れる。
今日は、ふもとの旅館に一泊する予定だ。そして明日の朝高速に乗り、昼には自宅に着く予定。
本当に短い旅行だけど、日帰りより幾分かマシだから。
「…」
山を降りる途中、よく見る光景がある。
一つ目は、山を去るのが名残惜しい人たちが、車から降り、別のアングルから山を撮ること。
ちゃんと停車用のスペースがあるならまだいい。だけど本当に狭い、それも見通しの悪いカーブの先に車が止まっていたら…。
なんて思うと本気で怖くなり、力いっぱいブレーキを踏む。
…生憎どこかの相坂さんと違って、FFのグリップでも十分流せるわ!と幼なじみさんにドリフト張りのコーナリングを要求しないし、
自分自身でもそれが出来るとは思ってない。何よりビートルくんはオートマです。
二つ目は、自分を鍛えるトライアスロン選手や自転車大好きくんが、切れたチェーンを交換するところだ。
逞しい脚やお尻の筋肉。真人くん、今も浪人生してるのかな?最近会ってないなぁ。メールも返ってこないし。
凄い健康的なトライアスロン選手を横目に、山を下る。
…生憎どこかの某相坂さんと違って、公道をスポーツに使うなこのバカチ○コ!と機嫌を悪くするようなことはしない。
そして三つ目は。
「…」
白い紙、そして立てる親指。満面の笑顔。
ヒッチハイクだ。
…ってそれ絶対ないから。
しかもそのヒッチハイカー(死語)は。
「き、きょきょきょきょきょーすけさん〜!?」
思わずブレーキを左足で踏んでしまって、車が軽くグリップして後輪から煙だして停車した。
…さっきのところでトイレ行ってなかったら、多分危なかったと思う、今のは。うん。

 「お、止まってくれたのか!ありがとな…って小毬!?」
「…(ぐしぐし)」
半べそで睨みつけてやりましたよ。本当に怖かったんだから。
「こ、小毬、お前、なんでこんなところでぐはぁっ」
「…」
無言で、車に積んでいる消臭芳香剤の瓶をダッシュボードから引っぺがし、力いっぱい(21)の顔面に投げつける。
私を寂しくさせた報いだから、コレくらいいいと思うけど…。
「鼻折れた…」
そのままそこで他の車を拾ってください。それでは。
なんてドア開けっ放しで走ろうとするけど、恭介さんは最期の力を振り絞り、後部座席に飛び込んでくる。
「ってきょきょ恭介さんっ!?」
「小毬なら話は早いぜ!今すぐ東京だ!東京に向かってくれ!」
「ふぇぇぇぇ!?」
話は早いって何か癪に障るんですが!?
ていうより、もう疲れて山を降りるのでも精一杯なのに。旅館のキャンセル料金は?
てかホントにクサいんですけど。車の中が悪魔の芳香に汚されてますけど。
「恭介さんどれくらいお風呂入ってない!?」
「おう、かれこれコレで3週間くらいだ!」
もう死んでください。死臭と同じくらいのクサさなんですから、もういっそ死んでください。
なんて軽口が叩けるほどの余裕もなく、山を下る車輪。
「でも東京なんて無理だよぉ…」
「いや、お前ならやれる!お前だってリトルバスターズの一員だ!」
「どういうつながり〜」
もうマトモな理論など、この人に求めちゃいけないんだろう。
「違う!高速はこっちだ!こっちが近い!」
「だから私は温泉旅館に〜」
「否、ナシだ!」
「なんで〜!?」
あの頃あなたに組み伏せられてサれるだけの女じゃなくなったんですよ、と反抗してみるが。
「事情は後で話す!いいから走ってくれ!メロス!」
私はメロスじゃありません!
「じゃ、メロ子」
メロ子って何だよ(21)。


 ツッコミどころ満載のまま、ガソリンも心もとない状態で、高速に乗り、南下する。そのままジャンクションを通過すれば、東京だ。
だけど案外高速を降りてからが大変で、渋滞に巻き込まれることが多い。行きも渋滞に巻き込まれたから、帰りもそうなるだろう。
なんて考えながら、とりあえず恭介さんに促されるまま、高速に乗った。
「いやぁ、車は快適だなぁ」
私は不快指数マックスです。臭いしキモい〜。髭が凄いよ恭介さん。最後に会ったあの日に比べるともう精悍さを感じない。
強いて言えば、目だけでグリズリーが殺せそうな勢い。もう疲れ切ってる人を乗せると、本気で疲れてる私まで疲れそう。
怖いのでとりあえず左車線をトロトロ走る。もう追い越し追い抜き大歓迎。
「小毬!もっと飛ばしてくれ!」
だからそれ自体無理な相談なんだってば。
愚痴をこぼしながらも、とりあえず走る。ひたすら走る。目的地に向かって。
「…」
途中燃料が心配になり、渋る恭介さんを言いくるめて、SAに停車、燃料を入れる。
その間にSA内のシャワー室でシャワー浴びてきて!と渋る恭介さんを本気でぶん殴りそうな勢いで追い出し、シャワー室に向かわせた。
「…」
私にとって、生涯最初で最後の男性になるはずだった恭介さんがあんなに変わり果てていたら、誰だって絶望する。
ホント、今まで何をしていたのか。シャワーから戻ったら首絞めながらでも聞き出してやる。あ、喋れなくなるか。
なんて残酷なことを考えながら、ガソリンを入れ終えると、私は車をシャワー室最寄の駐車場に移動させたのだった。
時間は、すでに午後9時。もう正直、恭介さんが何したいのかさっぱり分かりません。
「これで見たいテレビ番組があるから、とか言ったら」
流石に私もキレざるを得ません。
恭介さんなら絶対言いそうな勢いだから、逆に怖かったりする。
「ふぅ、すっきりしたぜ」
あ、髭まで剃ってたんだ。道理で遅いと思ってた。
すっかり昔に戻った恭介さんに安心してると。
「まず一服」
「…」
車内は禁煙です。
「…」
「…ダメ?」
「…」
こくん。もう返事は面倒だから頭で。
恭介さんは胸ポケットに煙草のハードケースを戻すと、煙草の煙を吐き出すより深いため息を吐いた。
私は半分近く呆れながら、恭介さんを待ってる間、売店で買ったボトルガムの封を開け、一粒口に放り込みながら、
同じく売店で買った芳香剤を開封し、匂いを確認して、東京への道を急ぐのだった。

 「でも、なんで東京に?」
てか、なんで今更?
なんて聞こうとして、それは流石に酷だろうと思った私は急遽質問を変更する。
その質問に恭介さんは。
「じきに分かるさ」
としか返してくれなかった。
そのもうじき分かると言う抽象的な答えは求めていなくて、せっかくの私の休暇をぶっ壊したのだから、その説明責任をしっかりと
果たして欲しいんです。国会議員みたいな人間は嫌われますよ、恭介さん。
「zZZZZzzZZ…」
って寝てるし。
相当お疲れなんでしょうけど、もう、ここで叩き起こして追い出していいですか?
なんて思うのは、やっぱり、こんなに待たされたことに対する、せめてもの復讐なんだろう。イヤな子だなぁ、私。
こんなとき、理樹君ならなんて言うかな。恭介だから仕方ないよ、って言うのかな。
「…」
ルームミラーに映る彼は、あまりに幼い少年の寝顔。
「…まぁ、いいか」
4年間もどこかを放浪していた彼だ。何から話していいのか本人でも分かっていないのだろう。
どんな方法で入国したかも分からない。きっと相当大変な旅だったはずだから。
「…こんなに優しくして、いいのかなぁ?」
それはよく分からないけど。


 JCTを通過し、東京はもう目前だ。
すると、さっきまで寝ていた恭介さんがマンガの登場人物のように目をカーッと開いて。
「っうぉぉぉっ!?ね、寝ちまったぁ!」
「ひぃっ」
ビックリして危うくブレーキを全力で踏みそうになる。精神衛生に悪いですこの(21)。
「小毬っ!今どこだ!?東京スルーしてねぇだろうな!?」
「ま、まだだよぉ〜」
「じゃもっと早く!」
「無茶だよぉ〜」
「わがまま言うな!」
どっちがワガママだ。
いい加減こいつ下ろしていいですか?なんてダークなことを考えながら。
「でも、いい加減教えて。私、大事な休暇潰したんだから」
「…じきに」
「じきにじゃ、説明になってません」
「…」
はぁ、やれやれ。だってさ。
こっちがヤレヤレだぜ、とか言って車から叩き出したいんですけど?
「……最近、鈴と会ってたか?」
「…」
そう言えばここ数ヶ月間、あんなに仲がよかった彼の妹…棗 鈴ちゃんとはマトモに会ってなかった。
合いたいのは間違いなかったし、仕事で疲れた身体でメールをしてはみたけど、帰ってくることは元々少ない。
それなのに、ここ1週間は特にメールが帰ってこなかったので、忙しいんだろうと放置プレイかましてた感がある。
もしかして、鈴ちゃんと連絡が取れないことが心配になって帰ってきたの、恭介さん?
「…だろうなぁ。だったら、もう分かるはずだけどな」
と、彼の携帯がブーンと、バイブレーションする。
「お、いよいよか…もしもし、理樹か?あぁ、あぁ…ちょっと待ってろ」
そこで彼は電話をスピーカーモードにして、私の耳に近づける。理樹くんとの電話のようだ。
『今、分娩室に入ったよ。あ、小毬さん聞こえる?ゴメンね、恭介のワガママにつき合わせて』
ワガママ?
分娩室、という言葉を聴いて、それがタダゴトではない、ってことくらい私でも分かる。
「鈴ちゃん、赤ちゃんが生まれるの?」
『うん…僕との子』
「…」
あのショタフェイスで有名な理樹くんは、下半身はオオカミさんだったようで。
『もうすぐ首都高に乗るでしょ?その、どうせ恭介が無茶言うと思うけど、気を付けて…』
「おいおい理樹、冗談きついぜ」
理樹くんは大人だなぁ。後部座席の何かとは大違いだ。
「…」
鈴ちゃんがお母さんになる姿が見たい。
それが糧になり、私はアクセルを踏みしめる力を強くする。
だけど途中事故が原因の渋滞に巻き込まれ、進めなくなる。
恭介さんが車から降りて無双乱舞して道を切り開く!とか言い出したのでガムのボトルを顔面に投げつけて、黙らせる。
横転したタンクローリー。運転手さんは重体らしい。イヤになる。誰かが生まれる傍らで、誰かが死んでいく、この運命が。
彼の無事を祈りながら、事故処理を担当する警察官の誘導灯に従い、横を抜けていく。
恭介さんはそんな状況を、流し目で見る。私は泣きたいくらい怖いのに。
きっと、多くの生まれる瞬間と死ぬ瞬間を見てきたのだろう。その、小さな少年の心に。
「…小毬もカメラやるんだな」
「うん〜?」
突然切り出した話題。いつの間にかカメラバッグから抜かれた私の一眼レフ。
「た、高いんだから乱暴に扱わないでね〜?」
「…いくら?」
それはそれは、とても高いんですよ。ボディだけで20万くらい。
「俺が日本にいない間、一眼も進化したなぁ…」
俺が日本を出るときは画面サイズ2.5型くらいで、600万画素くらいだったのになぁ、なんて勝手に回想モードに入りやがりましたよ。
買ったのは同僚にハメられて買った、2110万画素、フルハイビジョン動画も撮れる上位機種だ。
「でも小毬も、ってことは?」
「…」
恭介さんが背負っていたリュックから取り出したのは。
一眼レフ。もっともそっちは、銀塩…フィルム式だけど。
「ニコンの骨董品さ。もっとも、海外でもニコンは有名みたいだな」
「…」
キヤノンが一番有名で人気だと思っていたんだけど、案外そうでもないようだ。
キヤノンと、ニコン。永遠のライバルとして切磋琢磨してきたメーカー同士。
「これで、俺の記念すべき初甥っ子か姪っ子を写す。それが帰国の理由さ」
「…どうやって帰ってきたの?」
「輸出用のコンテナにだな…」
「わーっダメダメだめぇ!」
これ以上は本当にいろんな意味で法に触れそうだからとりあえず恭介さんを黙らせた。
「隣にはの○ピーの大好物の白い…」
「アホちんですかぁ!?」
ドスッ。あぁ、芳香剤2本目、ごめんなさい。


 長い旅だった。
私たちが病院に到着した頃にはすでに夜も更けまくっており、出産そのものも無事に終了。
「…」
鈴ちゃんは疲れてすやすや。赤ちゃんもすやすや。
「さっきまでこまりちゃんを待つんだ〜!って意気込んでたけど、もう寝ちゃったよ」
可愛い女の子。名前はもう二人で決めていたらしい。
「璃々(りり)ちゃん、かぁ…」
「うん…コレくらいしか浮かばなかったんだ。僕たちの名前を取るなら」
十分、いい名前だと思う。
そう思って赤ちゃんの手を触っていると、生まれたばかりでもしっかり熱と鼓動が伝わってくる。
「…」
「恭介、ゴメン。こんなことになっちゃって」
出来ちゃった結婚に間違いは無いのだし、愛し合っていたのは間違いじゃないにしろ、やっぱり恭介さんは複雑…。
「いや〜。別に問題は無いぜ?むしろ今までそういう便りがなかったからな。理樹に本当に付いてるか心配してたところだ!」
全然複雑に思ってもいなかった!!!
「恭介…」
理樹くんも納得しないで!
なんてやっているうちに。
恭介さんがカメラを構える。それを制する私。
「小毬?」
「…」
マスター(内臓)ストロボでは、赤ちゃんがビックリするかもしれないし、何より自然な発色じゃなくなる。
「…」
私のカメラにストロボを取り付け、天井に向ける。俗に言うバウンスという技法だ。
「…小毬さん」
「…」
カシャッ。人生最初の一枚が、私でよかったのかな?
ファインダーの中の鈴ちゃんと璃々ちゃんは、とても可愛くて、ちょっぴり悔しい。
「…」
静かに昇る朝日を見ながら、もう一枚のシャッターを切る私だった。


 すっかり疲れ切った私。このまま家に帰って、お母さんたちになんて言おうか。
『どうせ小毬のことだから、ホームシックだよー!とか言いながら帰ってくるに決まってるわ』
それが口癖のマイマザー。別にほーむしっく、ってわけじゃないんだけど…。
「ねぇ恭介さん、どこで降りる?」
「…俺を降ろすつもりなのか?」
えぇ。乗っていられても迷惑です。
なんてビシィッ!と言える勇気と気迫に満ち溢れた私ならどれだけ強いか。
「…よし、決めた」
「ふぇ?」
刹那、私の胸が後ろから鷲掴まれる。
「ふぇぇぇぇ!?」
「俺も、人の父になってみようと思うんだ。よって小毬を今この場で孕ませる!」
「な、ななななななぁなななななにぃぃぃっ〜!?」
もう、言葉になってません。あぁ、冷静だなぁ、私。
「小毬っ!俺を待っててくれたんだろ?なぁ、いいだろぉ?」
「…」
そんな甘く切ない少年ボイスと表情になんて、だ、だまされ…っ。
「小毬…」
「きょ〜すけさん〜!」
何か分からないけど、半年後、私と恭介さんは結婚しました。てへっ。
(おわり)


あとがき

 小毬もフォトグラファーです。
今回小毬がどこに写真を撮りに行ったか想像してみてください。
少なくとも道のり的には、JCTを最低2箇所は通過することになります。
この季節、紅葉が綺麗なところと言えば…でしょうね。

相坂も先日、実家のある九州某県に立ち寄るついでに、某火山のある半島に遊びに行ってきました。
まだ紅葉はなかったけど、また秋が深まり始めたらもっときれいだなぁ、なんてスズメバチに追われながら思ってました。
…もう行くもんか、山なんて。
レンズも相坂が所有しているレンズです。
(EFS 10-22mm f/3.5-4.5 USM)
最初はEFS 18-200mm f/3.5-5.6IS USMと悩んだのですが(渡辺謙さんのEOS50DのCMっぽく)、小毬がそんな重いレンズを
ぶん回す姿が正直想像できなかったし、白レンズなんてもってのほかだから。カメラ本体は…スペックに軽く触れていれば、
キャノンにその機能を積んだカメラが何機種あるかくらい分かるでしょ?絞り込むのはとても簡単。
だいぶSSから離れてたから、リハビリ的な作品になったかなぁ、なんて。相坂でした。

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