不服だ。
だって。ここには僕と鈴しかいない。
みんながいない。みんなが、どこにもいない。
不服だ。
なら、僕が、世界を作るんだ。
僕と、鈴で作り出すんだ。
すべてを、また振り出しに戻そう。
強くなった僕と鈴なら、出来るはずだ。恭介、いま、助けるからね。


壊れた世界を再生するリクエスト曲SS『WORLD END』 music by FLOW

 病院のベッドの上で、理樹は目を覚ます。
どこまでも白い、無垢な病院の天井。
それは同時に、虚無を意味する、悲しい証。
「理樹…」
「ずっと、一緒にいてくれたの?」
「…うん」
鈴の声にいつもの覇気はない。
鈴はあの刹那のタイミングで、後ろに座っていた謙吾か、もしくは真人に守られたのだろう。
だけど、その彼らは?今どこかに搬入されているのだろうか。
それなら…。
自分自身、その可能性をまったく信じていないわけではなかった。
…少なくとも、生きていないとは思っていたが。
「みんなは…」
「病院の先生が、なにも、教えて、くれないんだ…」
「…そう」
こんな大規模な事故で、二人に何も教えないというのであれば。
「きっと、鈴には、そして僕には、辛い話、なんだろうね」
「…」
だが鈴は知っていた。
さっき、病院のロビーでテレビを見た。ちょうどニュースの時間で、修学旅行のバスが事故にあったこと、
そして現場から一応原形をとどめている遺体…オブラートに包まれてはいたが、原型といっても焼死体が
大半だろうと思わせる、山火事の真っ黒に焦げた現場から搬出が完了したらしい。
「…」
「でも、鈴は信じてるでしょ?きっと、生き残りはいると」
「…」
それもニュースで言っていた。
助かったのは、二人。今都内の病院に搬送され治療を受けている、と。
「…」
鈴があまりに無口で、心配になる。
伸ばした手はベッドから部屋の隅にいる鈴には届かない。
それでも、精一杯伸ばそうとする。まるで、鈴という存在を確かめるように。
「…もう、やめろ!落ちたらどうするんだ…」
「鈴っ…」
伸ばした手を掴む鈴、そして伸ばした手の先のぬくもりを確かめる理樹。
「…これからは、いつだって僕がそばにいる」
「…」
「プロポーズ、か?」
「…うん」
頷く理樹。答える鈴。
「そうか、理樹が一緒なら、これからもがんばれそうだ」
「鈴…」
「でも」
「…」

 静かに、口を開く鈴。
「でも、ここにはみんながいない。みんなに祝福して欲しいのに、祝福されない」
「…鈴」
「あたしは、みんなに祝福されたい。だから、みんなが帰ってくるまで、あたしは理樹とは歩めない」
「鈴っ!もう諦めようよ!もうみんなは帰ってこないんだ!奪われたんだ!だから…」
「…」
「もう、やめよう?これからは、僕と鈴だけで生きていこうよ。僕頑張るから。鈴を世界一幸せにするから」
「…」
必死で縋る理樹を突き放す。鈴なりの抵抗。
それは、鈴も強くなった、むしろ、理樹や恭介の後ろに隠れていたブランクを取り戻すかのように、
独りになっても戦う姿勢を見せていた。猫は、雌豹になったのだ。
「あたしは、最後まで信じる。みんなは生きている。あたしたちの未来はみんなに祝福して欲しい」
「だから理樹。お前も早く立ち上がれボケ!」
それだけ、ぶっきらぼうに言い残すと、彼女は病室を飛び出していった。木から陸に下りる豹のように軽快に。
取り残された理樹は、目の前のものを見据える。


---奪われたものはなんだ。変わらない世界で。

 そうだ、僕は、まだやることがあるんだ。
だけど、彼らを救える?どうやって?
恭介が言っていた。この世界は最後の瞬間に願って作った世界だと。
目を覚ました理樹と鈴が絶望しないように、無限L∞Pの中に組み込んだ世界だと。
「…」
願うことが出来るなら。また、歩き出すことが出来るなら。
「…」
だけど、どうやって?
願うだけで、それが叶うのだろうか。
「…」
ちりん。鈴の音。
「鈴?」
「理樹」
「…」
そして、つながれる手。
「鈴、僕、やってみるよ」
「…うん」
「絶対、恭介に鈴の花嫁姿を見せるんだ。そのために、世界を敵に回しても構わない」
「…理樹」
ちりん。
ちりん。
鈴が共鳴する。世界は、決して、一本道だけではなかった。
やがて、全てが共鳴するように、セカイが形を変える。

---セカイの終わりで生まれた光 今風の中---

 一筋の光しか差さない森の中。目を覚ましたのは、世界をもとに戻すため。
「ずっと忘れない、なんて言わせるもんか!」
「本当に楽し『かった』なんて、悲しいこと言い残して消えるな!」
二人は、終わらせるために、そして新しい始まりの為に、出来ることをした。
枝を折り、担架を作り、運び出せる生徒はみんな運び出した。
「来ヶ谷さん」
「理樹…くん?」
やっぱり意識はしっかりしていた。あの身体能力だから、死んでいるわけがないと思っていたから。
「危険だ、逃げろ!」
「大丈夫。僕は必ず、みんなを連れて帰るから」
戦士は、その先の多くを見据える。まだ生徒はたくさんいる。
女子生徒から優先的に運び出す。小毬やクド、美魚などの体が小さかったり弱かったりする子は、真人や謙吾、そして唯湖が
守ってくれていたおかげで外相も少なく無事だったことも、理樹たちに味方した。
「理樹くんっ、逃げて!」
「リキっ!」
引き止める彼女達を振りほどく。寝ていろと。
「大丈夫。みんなで帰るんだ。みんなで、また野球をするんだ。そのためなら、大怪我したって構わない!」
勝ち取ってみせる。みんなで生きる明日を。もう、何も失わせはしない。
レスキュー隊顔負けの作業も佳境に入り、体の大きな真人と謙吾を運び出したところで、最後まで爆発を抑止してくれていた恭介の
救出に入る。ありったけの布を、熱いガソリンが零れる燃料タンクに詰め込み、そして逃げ出す。
頭からも出血し、そして灼けたガソリンにその身を晒していた背中の傷も酷い。だが、理樹が追ってきた背中だけあって、
力強く、未だに生きる希望を捨てていなかった。直後の大爆発。リトルバスターズ最大のミッションは、リーダー不在の中でも、
次期リーダーがやり遂げた。それも、爆発前にすべてを終わらせる最高のカタチで。


 そこは、静かだ。
ジャリッ。焦げた土がまだ多くを覆っている。
「久しぶりだね」
「あぁ」
悲惨な事故から5年余り。
すでに卒業し、それぞれの道を進んでいた面々が集まる。その場所は、かつての事故現場。
「理樹の奴、何でこんなところに」
「まったくだ。私もダーリンと可愛い娘を待たせてるんだ。さっさと茶番を終わらせて帰りたいのだが」
「それはわたしも同じだよゆいちゃん」
「だからそれは…あぁもうどうでもいい」
既に母親になっているものもいれば、未だに学生を続けているものもいる。
みな、それぞれの可能性を現実のものにしていた。
この場所でなくなるはずだった、あらゆる可能性を。
その可能性、夢の叶う場所に、彼女もまた現れた。
「よくきたな、お前ら」
「鈴」
すっかり大人の女に成長した鈴が現れる。
「理樹はどうした?」
「…」
呆れ顔でぼやく鈴。
「約束しておきながら遅れて来るそうだ。どうしてもひこーきのチケットが取れなかったらしい」
「そうか…」
理樹は今、日本にはいない。
海外の大学でナルコレプシーについての研究に没頭する毎日だ。
鈴という素敵な女性を日本に残してまでするべきことか、という恭介の引きとめも無視して、未だに可能性を追っている。
全てを幸せにする、可能性を。
「やれやれ、少年らしい発想だ」
「まったくだ」
そうして呆れているところに、足音。
聞こえる。この音は。
「遅くなってゴメン。また、みんなで野球をしよう!チーム名はリトルロリロリバスターズだ!」
「…」
全員の失笑を誘いながら、満面の笑顔の理樹。研究でだいぶやつれてはいるが、優しい瞳はあの日のままだ。
「ただいま、みんな」
「お帰り、理樹」
抱き合う二人を祝福する仲間達。見せ付けるために呼んだのかと揶揄する彼氏彼女いないメンバーたち。
「さっそくだけどさ、みんなで野球しようよ。ほら、みんなが寝ていた場所で、さ」
手には、バットとボール。
「止まってた時間を動かせるのは、僕たちだけなんだから、さ」

---あの日見た空を願いの先へ届かせるように 
  世界の始まり 創造の朝に 僕ら真っ白い今風になろう---


始まりと終わりは同じ場所にある。
そう、ここはすべてが終わった場所。終わるはずだった場所。
そして、全てを勝ち取った、みんなの始まりの場所。
歯車が戻るとき、彼らの時計も回りだす。
遥かなる、ミライへ向かって。
(終わり)


あとがき

思わず書いた、しかも乱文だ。もうくちゃくちゃだ。今は反省している。
まさかゆいちゃん以外で書くとは思わなかったし、ゆいちゃんが他の男とくっついている展開を書くとは思わなかった。
だけど、これはあくまで可能性のお話だから、気にしないでください。

唯湖は直枝ですから(名言

個人的にはR2どころか無印ルルーシュもまだ未見です。
てかぶっちゃけた話漫画で十分かな、なんて。
だって竹Pでしょ?リベラル派反戦文化人で、万景峰号にも乗った根っからの北朝鮮シンパの。
ぶっちゃけ反戦をテーマにしている竹Pが関わると駄作化が激しいからなぁ…BLOOD+とか種とか。
だからあくまで漫画だけで、出来たら小説で我慢します。
だけどルルーシュが動き回るシーンが見れると思うと思わず生唾ごっくん。時流でした。

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