※この作品は正直理樹が壊れ始める過程の中の一部に過ぎません。
 
性的描写に苦痛を伴う場合は、飛ばしても結構です。また18歳未満の閲覧はご遠慮ください。

 結局僕は壊したくないし、壊されたくないんだ。
今まで生きてきた居場所の否定、それがすべて怖いだけなんだ。
だから、縋る。縋って何が悪いって言うんだ。誰もがそうして生きてきたんだ。
時に、それが愛した女の身体でも。


どんどんスクイズ並みに黒くなっていく理姫SS『It's gonna Sunny!!!-晴れたらイイねっ♪-』


 ギシギシ。
ベッドが揺れる。規則正しい律動、そしてベッドのマットが軋む。その不協和音。
ただ違うのは、その中にやけに粘膜質の水音と、もはや言葉とは呼べない嬌声が混じっていることくらいか。
「ひぃっ、ひぎぃっ、ひくっ、いぐっ、イグぅっ!」
ここは、鈴の部屋。
ベッドで嬌声を上げるのは、僕の恋人、たった一人の大切な女性(ひと)、鈴。
その人の恥部を肉の怒張で貫き、壊しているのは、僕。
「りぎぃっ、ひぐっ、ひぐぅぅぅっ!うぎゅぅっ!」
もう声にもならない、言うなれば壊れたカラクリの絶叫。
普段は稟として、そして下手な男より男勝りな恋人の部屋を訪れたのは、今からそう…2時間くらい前になるだろうか。
理姫の部屋のトイレで惨めなことになった僕は、後始末をしっかりし、そして臭いを消すために備え付けの消臭スプレーを、
危うく窒息しそうになるくらい部屋の中にぶちまけた。いや、むしろいっそのことあそこで窒息死していれば、どれだけ幸せだったろうか。
実の妹の痴態を思い浮かべ、射精してしまった自分の愚かさ、下劣さ。
もう、居た堪れなくなった僕は、部屋を飛び出す。
理姫は気付かなかったようで、パソコンに夢中だった。ドアが開くとき、僕を見て『どこ行くの?』と聞いてきたが、答えなかった。
今頃、気付いているかもしれない。僕がしてしまったことを。
そしてその後、廊下を駆け抜け、鈴の部屋に押し入った。
鈴は一人だって知っていたし、最初から、鈴の身体を求めていた。
押し倒したとき、凄く抵抗された。なにすんじゃボケぇ!と言われて散々蹴られ、引っかかれた。
我慢できない性衝動。ただ、妹を犯してしまうくらいなら、いっそ恋人の身体を犯し抜いたほうが、より罪は希薄になるんじゃないか、とすら
思ってしまった。鈴を犯しながら、次第に正気を取り戻した僕は、また苦しむ。あぁ、僕何してるんだろう、って。
だけど身体は正直で、本能は理性などで簡単に制御できるものではない。
それは鈴にも共通で、最初は猛烈な抵抗で僕を殺そうとすらする勢いだったのに。
「ひゃぁぅっ、いぐっ、まひゃ、ひっひゃぅぅっ!」
目を虚ろにして、涙と鼻水を垂れ流し、よだれをだらしなく垂れ流してよがっている鈴を見ると、凄く嬉しくなる。
まるで、猫の交尾のようだった。強いて違うところを挙げるとするならば、猫のように種の生存本能からただ子種をばら撒くのではなく、
本当に大好きな、大切なパートナーだけに子種を注ぎ込んでいる、そしてその行為に多少なり愛情が含まれている、ということくらいか。
「ひぎぃぃぃぃぃ……っ♪」
びくんっ、びくんっ。
鈴がぴんっ、と強張って、痙攣を起こす。
もう、言葉になっていない鈴の声。それを聞きながら僕も限界を迎え、鈴の胎内に熱い樹液を注ぎ込む。
膣内射精は、今日だけで何回目だろうか。
もう、回数すら朧になってきた。そして、この後も腰を振るんだろうか。意識が朦朧としてくる。バットで後頭部を殴られたような勢い。
「…」
「…りぎぃぃぃ…♪」
鈴は、本当に頭までイッてしまったようだった。しばらく、彼女の目から光が消えて、ただ虚ろな目で恍惚の表情を浮かべていた。
久々の愛が、こんな形だったなんて、トラウマになりはしないだろうか。そんな心配を今更する僕は、それ以上に最低だった。


 「理樹…」
「鈴…」
鈴はその後暫くして正気を取り戻した。
僕は本気で殺されるんじゃないかと心配していたし、怖かったのは事実だ。だけど、そうはならなかった。
「理樹は辛かったんだな。疲れてたんだろっ?」
「…」
疲れている?
そんなものじゃない。精神的ストレスが蓄積していって、たまにマトモな思考が出来なくなることがあるくらいだ。
だからといって僕がしたことが許されるわけではない。恭介がこれを知ったら果たして僕を許してくれるだろうか。
案外許してくれそうだけど、溝は深く広くなってしまうだろう。何より殺されないとは限らない。殺されなくても五体不満足にされるだろう。
しかし鈴はそれ以上の愛情で、僕を包んでくれた。
決して大きくはない胸。その中に僕を抱いて、頭をたくさん撫でてくれた。怖くて、苦しくて、沈みかかっていた僕を。
「疲れたならいつでもあたしを使ってくれ。あたしは、理樹の恋人なんだから」
「…うん」
妊娠が怖くないのだろうか。あれだけのおイタをしてしまったのに。ご機嫌を伺うように、お腹を撫でてやると。
「赤ちゃん、出来たかもな。でも、理樹の子なら、全然くつーじゃないぞ」
「…鈴…」
鈴は感情が幼くて、子どもが出来ることの大変さが分かっていないのかもしれない。
それなのに、責任すら取れない僕が、鈴の身体に子種をぶちまけた真実。本当なら僕は鈴に殺されても文句は言えないのに。
「…」
本当に嬉しそうに、自分のお腹を撫でる鈴。頭がイッてしまったのか、と怖くなる。
「理樹ぃ…あたしのこと、嫌いになったんじゃないかって、心配だったんだぞっ…」
そしてすぐまた女の子の顔に戻る。そして今度は僕の胸板に顔を埋める。
夕方くらいに、理姫を受け入れていた胸板。彼女がそれを知れば、どれだけの怒りに変わるのだろうか。
「理樹っ…」
そして今度は彼女のほうから脚を絡めてくる。
「鈴?」
「あたしから絶対離れるなっ!あたしは理樹の、理樹のっ…!」
「…大切な人、だよ?」
「…ふ、ふんっ。今更気付いたなんて言わせないぞっ」
あのセカイから帰ってきたときから、僕はずっと、鈴を…。
一瞬でも、彼女を苦しめた、裏切った報い。これは、その罰なんだ。罰を受け入れ生きていこう。
今度は自分から僕の上に乗り、性器を重ねる鈴を見上げながら、自然と、そんなことを考えていた。


 避妊という概念のない、その行為。
『せっくす、せっくすっ、気持ち、いいぞっ!』
「…」
未だに耳朶に残るその鈴の声を反芻しながら、僕は寮の外にいた。
「…」
結局あの後も、繰り返し繰り返し、お互いの粘膜と体液を混ぜあう儀式を行い、そして今に至る。
鈴は今ベッドの上ですやすやと眠りについているだろう。鈴も身勝手なものだ。久々の愛で満たされるなり、大きなあくび。
そして、理樹、大好きだ…と言った後すぐに眠ってしまうんだから。
そんな僕は、これ以上あの場所にいると、さらに鈴を汚してしまいそうで、それが怖くなり、鈴に毛布を被せて風邪を引かないようにしてやると、
逃げるように服を着て、外に出た。
初秋の風は、上気した身体にとても優しい。だけどまだ夏休みが終わったばかりで、どうにも暑い夜というのは免れない。
まだエアコンがいるかな…なんて思いながら、芝生に横になり、目を閉じる。
「…」
鈴の、身体の感触。とてもしなやかで、抱き応えがあり、そんな人を恋人にしていられる喜び。
幼なじみから、ここまで深い関係になり、誰からも祝福されている二人。それだというのに。
『特定の彼女はいないよ、今はね』
何を、言ってしまったか分かっている。そして、それゆえにさっきまで僕がしていたことが、許されるかそうでないかも、分かっている。
「…」
いっそ、自殺でもしてしまおうか、なんて考えてみるが、いい感じで死ねるものがない。
「…」
自分の弱さが時々イヤになる。死のうとして死ねない弱さに。
「…」
そして、この身勝手な頭が一番嫌いだ。
「ここで死んだら…理姫は…」
理姫はまた独りぼっちになってしまうじゃないか。なんて冷静に考えてしまうこの頭が憎い。
さっきまで理姫から逃げるために、理姫を否定するために鈴を抱いていたくせに、もう次は理姫の心配だ。
憎い、憎い、憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い憎いっ!
近くにあった小石を手に取り、頭に思いっきりぶつける。
それは額を切り、そこから血が流れる。少しでも冷静さを取り戻せるだろうか。
「…」
見上げる夜空は、どこまでも星が綺麗で、こんなところでこんな風に苦しんでいる自分がバカみたいに思える。
「…」
そうだ、理姫はあくまでただの妹であり、僕が愛する人は鈴なんだ。
理姫とは結婚できない。今は正式な妹なのだから。だけど、鈴とは血が繋がってない。愛し合い、世帯を持つのは当然の摂理だ。
「…話そう」
理姫に伝えよう。僕は理姫が嫌いじゃない。だけど、理姫の大切な人にはなってあげられない。
だから、兄妹として、上手くやっていこう。それが100%伝わるかなんて絶対確信が持てないけど。


 「あ、お兄ちゃん遅かったね…ってお兄ちゃんどうしたのその傷っ!」
「あ、あぁ、そこで転んじゃって」
理姫にとっては見え透いたウソなんだろう。だけど今は気付いていないようだ。気付いていない振りをしているだけか。
「すぐに消毒するからねっ!」
「いいよ、そこまで大げさにしなくても」
「するのっ!」
「っ」
僕の言葉を遮るように、理姫は声を上げる。思わず首が引っ込む僕。何も疚しいことなんてないのに。
「お兄ちゃん一人の身体じゃないんだよ!?お兄ちゃんの怪我は、わたしの怪我なんだからっ!」
すぐに救急箱を持ってくるからねっ!と動き出す理姫の手を、僕は掴んでいた。
「お兄、ちゃん?」
「…いいんだ、いい…」
「…」
有無を言わさない僕の声に、理姫も沈黙する。
「わたし、お兄ちゃんに嫌われること、した?」
「…してないよ。何も」
そう、悪いのは僕だけなんだ。理姫はおろか、僕以外の悪い人なんていないんだ。
だというのに、素直になれない。
「お兄ちゃん…」
「僕は…」
話があって戻ってきたんだ。その言葉が出ない。
「…♪」
「っ」
理姫はその部屋着が汚れることも気にせず、僕の顔を胸に抱いた。
優しい微笑み。さっきまで言おうとしていたことが全部消えてしまう。
「…」
「お兄ちゃんが何で苦しんでるか、話してくれなきゃわたしも分からないよ。でも、話したくないならそれでいいよ。だけど」
「一人で、何でも背負おうとしないで。わたしは、理姫は、そのためにいるんだから」
お兄ちゃんの苦しみを半分にするために。
どうしてそんなことを平然と口に出来るのだろう。こんな裏切り者を。
…裏切り?
裏切りといえば、今までウソをついていたことがバレてしまえば、僕はどうなるだろうか。そして理姫は。
急に怖くなる。さっきまで伝えようと心を決めて来たのに、なんていう自分の弱さ。
「…お兄ちゃん?」
「…ありがとう、理姫」
「…うんっ♪」
その台詞は今言うべきじゃないのに。この最低野郎は。
そしてちゃっかり手当てを受けている僕。最低の裏切り者だ。もう、僕は…。


 それでも、結局僕は理姫といっしょに床に就く。
「…♪」
「…」
ベッドサイドの照明を消して、小説を枕元に置くと、僕のほうを向く理姫。
「ねぇお兄ちゃん」
「ん」
「何か、お話してよ」
「お話?」
御伽噺とか、そんなものの類だろうか。生憎僕はそんなロマンティックなものは持ち合わせていない。
諧謔の分からない、どうしようもない男だから。
「昔からね、夢だったの。お兄ちゃんやお姉ちゃんに、枕元でお話をしてもらうこと」
「…」
「お母さんじゃなくて、お父さんでもなくて、お兄ちゃんやお姉ちゃんにして欲しかったの」
「そう…」
だけど、本当に話せることなんて何も。
「…」
「でも、お兄ちゃんってわたしから見ても、お話上手には見えないもん」
だったら最初から期待しないで欲しい。
その言葉を素直に伝えることも叶わず。ただ、理姫ペースにハマっている自分も悪くないと思えてくる。
適当に肯定否定の返事をしていればいいのだから。
「お兄ちゃん、また難しい顔してた」
「放っといてっ」
「…」
「…」
見上げる天井は、相変わらず落ち着かない。
…今までは、二段ベッドの天板が真上にあり、いつ真人が天板をぶち破って落ちてくるか分からなかったから。
それが、今では妹と同じ部屋で寝食をともにしている。その順応性にあきれ返るしか出来ない。
「…お兄ちゃん、やっぱり男子寮がいい?」
「…懐かしくないといえば嘘になるよ。でも、今のここもいいんじゃないかな、って」
「…♪」
また、心にもないウソを。順応する上に流される。何がしたいのかさっぱりだ。
「お兄ちゃんがいて、わたしがいる。この場所、これからも大事にしたいなっ♪」
そしておやすみと伝えると、まぶたを閉じる妹。腕を絡ませ、身体を寄せて。
「…」
そして暫くして寝息に変わる呼吸。優しい寝息が僕の身体に掛かる。
「理姫…」
鈴とはまた違う柔らかさ。そして、鈴とは大幅に違う、愛らしさ。
妹じゃなかったら、僕は彼女をどうしただろうか。そう思うと本気で怖くなってくる。
だというのに、罪の意識もない、そして、骨まで食われそうな感覚に囚われる。
ある種の恍惚感と、恐怖。そんなものに包まれるから、僕は眠れそうにない。
…彼女の眠りが深いことを知ると、僕は布団から抜け出す。そして冷蔵庫からコーラを取り出し、ベランダへ。
頭を冷やして、ゆっくり休もう。言うチャンスはいくらでもあるさ。
今は、こんな他愛ない兄妹ごっこに興じていよう。いつか理姫が僕なんかに興味を示さなくなる日まで。

---それは、絶対にありえないことだと、そのときは気付けなかった。

 コーラの炭酸が、喉を通過する。不快感のような、そうでもないような。
「…」
ふと、携帯にメールが入っていることに気付く。鈴だ。
それも、鈴にしては、珍しく長いメール。そんなのを見る日など絶対に来ないと思っていたのに。

Title;無題
本文;
久々に抱かれて、嬉しかった。やっぱりあたしには、理樹しかいないって思った。
理樹、あたしは嬉しい。理樹は嬉しいか?

嬉しいよ、と返信すると、それから1分もしないくらいでメールが返ってきた。

Title;Re:
本文;
大好きだ

 それだけ伝えるメール。僕も愛してるよ、と返してみると、その後メールは返って来なかった。
目を覚まして僕がいなかったのが寂しかったから確認のメールをしたのだろうか。それとも、素直に僕のことを…。
邪推はやめて、素直に喜ぼう。色々ありすぎて疲れただけだ。そんな時に鈴がいてくれて本当に良かったと実感できる。
あんなその場の勢いで抱いた僕を、ここまで想ってくれる人がいることに感謝して、残りのコーラを流し込む。
「…」
やっぱりコーラは苦手だ。
(つづく)


あとがき

 このエピソードはぶっちゃけ飛ばしてくださって構いません。
あくまで理樹が少しずつ疲れ始めて壊れ始める最初のステップを描くだけですので。
飛ばしても別段問題はないように思えるし、ね。

 ってことでいきなり序盤から鈴をめちゃくちゃにしてる理樹君にビックリした方も多いと想いますが(苦笑)、
鈴を抱くことは理樹にとって自分の確認だったんでしょうね。鈴を裏切ってはいない。僕は鈴の、鈴は僕のものなんだ、って。
久々の登場なのに、鈴が不憫な感じがしないでもないような…。まぁ、恋人だしね。設定上、は。

 個人的には最後の『やっぱりコーラは苦手だ。』で色々想像して欲しいな、なんて想ってます。
何が苦手なのか、コーラの何がいけないんだ、って邪推してみたり、なんでコーラなの?って想ってみたり。
次に続く言葉を自身で考える、ある意味中途半端な結末、って感じで相坂でした。

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