懐かしい香り。何となく、そう、ただ何となく懐かしい。
だけど、その懐かしさが何なのか、その風が運ぶ香りが何なのか、あたしにはさっぱりだ。
ここにはいたことがないのに。ここには何かがあったわけじゃないのに。
木漏れ日は、教えてくれないけど、きっとそのときは来る。そう信じたい。
だから、今こうしてここにいるのだ。


第6話 『仔馬と貫く鉛 -Colt .45's Song-』


 雨は、昼過ぎに上がり、そして雨上がり特有の湿気が大地を這う。
夏の終わりとはいえ、まだ暑い盛り。太陽が照り返す地面をその水蒸気が這い回り、
気分は最悪。湿気の蛇が体中に絡み付いてくる不快感を覚える。
その世界とは無縁の環境も、この学園の中にはあった。
少し、ひんやりした木漏れ日の並木道を通ると、裏山に続くルートに出る。
そこには開けた空間があり、よく男子生徒がここでキャッチボールなどに興じる姿が見えたそうだ。
見えた、というのは、今はもう誰も使っていない、とのこと。
ところどころに見える、マムシ注意の看板がその原因だろう。
まだ自然が少しばかり残っている環境だ、そういった野生動物に出逢うのも珍しくない。
だがだからこそ、保護者から預かっている生徒にそんな危険があってはならないと、教職員が
立ち入りを禁止してしまったのだ。
…ただ、そこが懐かしくて、彼女はいた。

 朱鷺戸あや。最近転入してきたばかりの少女だ。
容姿端麗で一躍クラスの人気者にのし上がっていた彼女。
そして、そんな彼女が退屈な昼休み、教室を抜け出してやってきたこの場所は。
「…」
忘れていたような、ただ、一種のデジャヴを感じる場所。
懐かしい感じがする場所。最初からここにはいなかったのに、何故か懐かしく感じる場所。
だけど、それも本当にうたかたのことで、そもそも転入したばかりの学校の、こんな辺境の場所を
珍しいと思っても、懐かしいと思う感じがまったくわからない。
「…あたしもボケたのかしらね。この状況で」
一時は切断さえ覚悟した、足。
一度は、もう何も掴めない、何にも触れることが出来ないのでは、と絶望した手。
その全てが動く。そしてその全てでこの空気を感じ取れる。
「…」
だけど、救ってくれた大切な人、パートナーの顔が浮かんでこない。
いつしかそれはどうでもいいことではないか、と思い始めていたが、この学園に転入してからというもの、
それが頭から離れない。なぜだろう、だから、懐かしい香りに釣られてここに来た。
「…ん」
風が、木々を揺らす。
その一本の木の陰になっていたところに太陽が当たり、何かに反射した。
「…ピストルの、おもちゃ?」
それは、おもちゃ、というには重厚な作りの、どちらかと言えばモデルガン。
この雨でぬかるんだ地面の中でも、その土のところだけは乾いていて、しかもモデルガンにはまったく
泥も付いておらず、まるでついさっき誰かが地面に置いた、かのような佇まいだった。
「まぁ…そんなのに触るような年頃じゃ」
ないかな、と言ってもやはり気になる。歩み寄ってそれを拾う。
「…」
仔馬が大地を蹴り上げ、前足を持ち上げる勇ましい姿の刻印がされたピストル。
ふと、グリップ(握把【あくは】)の横にボタンがあるのに気付き、それを押す。
弾倉が銃から外れ、銃弾がひょっこりと顔を出す。
しかしその銃弾は、おもちゃの部品にしてはあまりに良く出来ていた。弾頭は銅のコーティング。
「…これ、実銃かしら」
だとしたら、警察に届けなければ。だけどその前に一発撃ってみたい。
好奇心に駆られ、弾倉をグリップに戻す。そして、スライドを後退させ初弾を薬室に装てんする。
その動作は、少なくとも普通の女の子として育ったあやにとって、ドラマで見ることはあっても、
本人が無意識に行えるものではなく、それにすら違和感を覚える。
そして照準まで平然と行うあたりに、きっと破天荒でアブない二人組の刑事(デカ)がドンパチやるような、
往年の名ドラマの見すぎだ、と割り切る。そう言えば再放送が今日で終わるんだった、と思いながら、
最後に引き金を引くかどうかで悩むあや。


 同時刻、シンは、その場所のすぐ近くにいた。
葉留佳の質問、苛立ち、怒り、そして逃走。
誰もわかってくれない痛みほど、苦しいものはない。
まるで、真綿で首を絞められるような、後味の悪い苦痛。
差し伸べられた小毬の手すらも、簡単に弾き飛ばしてしまう手。
結局、自分も誰かを傷つけなければ、誰かを犠牲にしなければ生きていられないのだ、と錯覚する。
そしてその手を今一度見つめる。
この手は、誰のためにある?
誰かを守れるように、誰かの力になれるように。
そんな偽善が気に入らない。その時使える力がなければ、手などただの肉体の一部なのに。
「…」
気分が悪い。今までいた学校のほうが断然良かった。友達こそいなかったが誰も彼に干渉しなかった。
力さえあれば、自分のスペースは保てた。触れるものは、肉体的苦痛を与えて。
だがここは調子を狂わされる人間ばかりだ。帰りたくもなる。
「オレは」
手を無意味に近くの木にぶつけてみると、そこから、血がにじんだ。
「…」
流れているんだ、紅い血。
流血を見ながら、そんなことを冷静に考えるシン。
自分の血は冷たいと思っていた。なのに傷口は熱く、そして流れる血も温かい。
それは木ににじみ、そして、手が少し赤く染まる。
…息絶えた妹を抱き上げたときと、同じような色に。
「…」
悔やむことは、次に繋げること。
それすらもシンは拒否していた。力がないことを悔やむばかりで、いつまでも、その犠牲という
エクスキューズに逃げて。その『被害者』という陽だまりから抜け出せずにいる。
大人に、なれないのだ。
「…」
そんな彼の好奇心を引くものが、近くにあった。

風になびく金髪をリボンで二つに分けた少女の後姿。
それが何かを構えている。
「…」
妹がもし存命だったら、あんな感じに育ったのだろうか、なんて思ってみる。
なぜなら、好き好んでこんなところに来る変わり者なら、妹に似た部分があるんじゃないか、とさえ
思えたからだ。そして、その構えているものも大体分かった。
「…」


 後ろから近づくと、その地面を踏む足音に、あやが振り帰る。
「誰っ!」
「…アンタこそ、誰だよ」
「何、あなた」
「…」
振り返ったあやは、イタズラがばれた子どものように「しまった」という顔をしていたが、
やがて相手が同じ学園の生徒だと気付くとたちまち強気に出る。
負けん気の強い女の子キャラでもなかったのに、なぜだろう、自然と出てくるその態度。
頭の片隅でそれが普通だと思っている自分に違和感感じまくり。
そんなのも気にしないシンは、あやを思いっきり睨みつける。
「まず銃口を下ろせよ。おもちゃでも痛いんだぞ」
「ふ、フン!おもちゃじゃないわよ!食らったらあなたの土手っ腹に風穴がバーンッ!って開くんだから!」
根拠はない。確かに重いけど、実銃を持ったことはないので、断定は出来ない。
なのに、実銃と同じような重さを感じる。まるで、どこかで持っていたかのように。
「…」
「ほら、どうするの?あたしの言うことを聞く?それとも、ここで頭ぶっ飛ばされて消える?」
「…」
動じないシン。
「あら、チビって動けないのかしら?あーはっはっは!ほらさっさと消えなさいよあさっぷあさっぷ!」
「…」
「…な、なによ、その痛い子見るような、憐れむような目は!」
「…」
可哀想な子を見た気分になったシンは、そこに背を向けた。
…というより、相手にしたくないタイプだった。
「…」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「…」
振り返らず歩くシンに流石に怒りを覚えたあやは、引き金に指をかける。
これが本物であれ偽者であれ、少なくともシンを威嚇できる、そう信じて。
願わくば、痛い子を撤回させよう、願って。
「…」
かちっ。重いトリガーが確かに本体に向かってベクトルを刻む。
それは確かに撃発した。バンッ!という強烈な音とリコイルショック(反動)で身体に振動と衝撃が襲い掛かる。
それがあまりに強烈で、きゃっ、という可愛い声をあげて尻餅をつく。直後、木に止まっていた鳥が羽ばたく。
「…」
そして、次を撃ってみようとすると、銃のイジェクター(廃莢口)に先ほどの銃弾の薬莢が挟まっているのに気付く。
何度か、引き金を引いてみる。そして銃口を覗き込もうとすると。
「っ!」
それからは、覚えていない。
顔を真っ青にしたシンが、銃を奪い、投げ捨て、そして押し倒して覆いかぶさる。その後、静寂がその場を包む。
「死ぬ気かこのバカ!」
「っ!」
怒られたことが怖かったんじゃない。したことが死に繋がりかねないことだった。
現実的に実銃なワケがないのに、と冷めた発想を持っているのに、シンの行動が怖く、そして逞しかった。
まるで、こんな風に守られる経験を、どこかでしたかのように。
「…」
「…どいて、くれない?」
「…っ」
シンもようやく、自分がしたことに気付いたのか、すぐに飛びのく。
「ご、ごめんっ!」
「…」
無意識とは怖いもので、シンも実はまったく何も考えずに動いていた。
それが当たり前だと、身体に刻み込まれているかのように。
結果としてあやの命は救われたわけだが…。
「…やっぱり、モデルガンだ」
「…」
冷静になったあやが、シンが投げた銃を拾う。
そして、確認すると、弾頭は残っていた。そしてそれは明らかに実銃と違う違和感満載だった。
第一、撃発すると、撃針がプライマー(雷管)を叩き、その痕跡がしっかり確認できるはずなのだが、
この銃に限っては、そういうものが最低限しか見受けられてない。また、本来金属であるべき箇所が、
ABS樹脂で出来ているなど、普通に触れば一発でわかる部分がおもちゃ丸出しで面白おかしかった。
だが案外使っているのはヘビーウェイトのため、反動はそこそこに感じられた、それだけの話。


 太陽が、次第に雲を押し退けて台頭してくる頃。
「あーぁ、スカートぐちゃぐちゃ…げっ、ぱんつまで浸水してきてる!あーん気持ち悪いぃ…」
「じゃ脱いで乾かせよ」
横からデリカシーの欠片を微塵も感じさせないシンのツッコミが入り、正気を取り戻し紅くなるあや。
「あたし処女なのよ!?処女のパンツにどれだけの価値があるか知ってるの!?諭吉5人分は下らないわよ!」
「よく分からないけどさ、オレ帰っていいかな」
「黙れ。とりあえずそこに直れ」
「…」
アホか、と思えるくらいのテンション。抑揚が激しく、よく状況が飲み込めない。
シンが一番苦手とするタイプだ。他人を自分のペースに巻き込むような。
鈴、来ヶ谷、美魚、小毬、そして理樹に近いタイプ。
「どうしてこうも変人ばっかなんだよココ…」
「あぁん!?何だって!?」
「…」
豹変しすぎ。とりあえずなだめておく。
「分かったよ、スカートとパンツ乾くまでここにいてやるから」
「と、当然でしょ!?あなたがヘンな行動取らなきゃ、あたしこんな目に遭ってないんだもの!」
はいはい、ととりあえず隅っこにあったベンチに腰掛ける。
「…」
「ん?」
「…レディーファースト」
「へ?」
聞き返すシンになぜか怒るあや。
「先にハンカチか何かを敷いてから女の子を座らせるのが基本よ!」
「知らないよ、そんなの。座れるところに座るだけさ」
「…」
調子狂うわ、とブツブツ言いながら、一人分空けたところに座るあやに、シンも思う。
いや、アンタには負ける、と。
「…そう言えば、名前は?」
「…名乗る必要ないだろ」
「…」
そこで途切れる会話。
「…そ」
「納得するのかよ!」
「何よ、聞いて欲しいの?」
「あ、いや…」
テンションもペースもまったく考えていない、実にフリーダムな女の子には、どう対処していいか分からない。
そんなことを経験していないシンにとっては、相当厄介な敵だ。
「あたしに名乗らせたかったら、諭吉2人ね。それがイヤなら名乗ってよ」
「理不尽だ!」
それでいて相当理不尽。さて、どう対処したものか。
「…」
「…」
「…諭吉」
「うっ…」
半分泣きそうになる。あぁ、なんでこんなバカタレと一緒にいるんだ、と。
腹立たしくなってさっさと名乗ることにした。諭吉は今手元にないし、財布に入ってきても断じてやるものか。
「リチャード・ウインターズ。愛称でディック」
「…いっぺん、死んでみる?」
手にはいつの間にか先ほどのピストル。偽者だがグリップで殴られればタダじゃ済まない。
「…」
「飛鳥、心」
「…ふぅん。シンね」
「…いきなり呼び捨てかよ」
「下級生でしょ?いいじゃない」
それが初めて出会った人間への態度なのだろうか?といささか疑問も感じるが、追求したくない。
むしろ追求することすら時間の無駄に思えてくる。さっさとスカートもパンツも乾け、と祈るばかり。
「で、アンタの名前は?」
「諭吉寄越しなさいよ」
「理不尽だっての!」
漫才コンビを組んだ覚えはないぞ!と腹立ち紛れにぶつけてみる。
「何よ、理不尽って。女の子に名前を聞くのに、そんなぶっきらぼうな態度取るほうがおかしいわ」
「…諭吉の価値があるかは、オレが決めることだ、アンタじゃない」
「むぅ」
いささか不満そうなあやだが、それは一理ある。誰も個人の価値など推し量れないものだ。
相手がどれだけ自分を有能で有力な人間だと思っていても、それは時として。
だから、シンは普通にその意見を蹴飛ばしただけ。
観念して、彼女も名乗る。
「あやよ。朱鷺戸あや。いい名前でしょ」
「いや、全然」
「いっぺん死ぬか?」
「…」
今更後悔。聞かなきゃよかったと。
そう口に出すのも憚られるような空気だったので、とりあえずあやと同じリアクションをしておく。
「ふぅん、あやね」
「…」
サクッ。手刀が頭にめり込む。
「てぇっ!何すんだよ!」
「あや先輩でしょ!もしくはあやお姉さま!10歩譲ってS音様!」
「一番最後のはなんだよ!」
「…さぁ」
「さぁってアンタ!」
何だ、ここにはバカとアホの子しかいないのか?
なんて思っているうちに、5時間目の終わりを告げるチャイムが鳴る。
「…結局一時間無駄にしたじゃないか」
「あら、次もあるわよ?まだパンツ乾いてないもの」
「…」
転入以来、ここまで虚しい時間を過ごした覚えは…そう、来ヶ谷以来か。
しかし来ヶ谷以上に厄介だ。この手のキャラは。
逃げても追い掛け回しかねない狂犬のような目に見据えられ、上げかかった腰を再度ベンチに下ろす。
ため息が、一緒に地面に吸い寄せられていった。


 それから、あやのことを断片的にだが教えてもらった。
父親が医者で、世界中を飛び回り、そして苦境にある人々を救ってきた。
多くの救われない命を、看取ってきた。もちろんそんな生活、そんな世界だから、普通の学校生活とは無縁。
しかし、不幸が起こる。落石事故に巻き込まれてしまったのだ。
遠のく意識、動かなくなる身体。死を覚悟して、そして。
「生き延びたのよ。誰のせいか知らないけどね。覚えていないし。腹立たしいことこの上ないわ」
「…」
あの雨の中、来ヶ谷が言ったことと似た台詞。大切な記憶のはずなのに、思い出せないということ。
シンにはそれが分からない。ふと、来ヶ谷の言葉が頭に浮かぶ。

--果たしてキミは 今の自分をどれだけ信じることが出来るかな--

 暗にこのことを言っているのではないのだろうか。
みんな何かに救われたのに、それを覚えていない。その出来事を忘却のかなたに追いやっている。
酷な話だ、と受け止めながら。
「…で、結局、お父さんも反省したのかしらね、ここにいるわけよ」
生き延びた彼女は、まったく異なる、それでいて違和感だらけの世界にいた。
記憶だけがどっかに飛んでいって、そしてまた戻ってきた錯覚。やがて、父親からは驚く言葉が出る。
「もう旅に疲れたし、しばらくは日本に滞在する、って言ってたけど、ホントかしら。本音は」
あたしに、こんな温かい世界もあるんだ、って教えたいんじゃない?
皮肉交じりだが、この歳特有の、父親への嫌悪感は感じられない。
それだけ、父親を敬愛しているのだろう。
忙しさに感けて、まったく愛情を注いでくれなかったどこかの父親とは大違いだ。シンはうつむく。
と、あやもシンに興味を持ったのか、うつむいているシンを下から覗き込んで乞う。
「シンのことも教えてよ。どんな風に過ごしてきたのか」
「…」
どう話せばいいのだろう。
殺された、と素直に言えばいいのだろうか。
何故か、あやの聞き方、態度には、葉留佳の時ほどの怒りは感じられなかった。
それは明らかに好奇心ではなく、かと言って興味がないのに社交辞令、というわけでもない。
握る拳に力が入り、そして震える。不審がるあや。
「…シン?」
「…殺されたよ、みんなね」
「!」
すぐに顔面蒼白となり、しまった、という顔になるが、ごめんなさいと言葉を出せないでいるあやに対し、続ける。
「2年前のクリスマスイブの夜に、殺されたよ。怨まれる覚えはいっぱいあったから、さ」
「…」
父親は弁護士。当然内容次第では怨まれる。だから、その死因は明らかな殺意と怨恨を秘めていた。
「結局、殺されて当然だったのかもな、オヤジだけは。後はみんな巻き添えさ、母さんも、妹も!」
結局自分を何一つ理解してくれなかった父親。一緒に遊びに言った記憶なんて限りなく少ない。
それも途中で仕事の関係でお開きになり、愚痴をこぼしながら帰った記憶しかなくて。
そんな彼の頬に衝撃と痛みが来る。犯人は…あやだ。
「…っ」
「これは、お父さんの分ね」
「…っ何すんだよアンタ!」
食いつくシンの頬に、もう一発平手。
「てぇっ!」
「これは、巻き添え呼ばわりされたお母さんと妹さんの分ね」
「てめぇ!」
もう女でも容赦しない。そう決めて殴りかかろうとするが、出来ない。
力がないからじゃない。相手が女だからでもない。
あやの、言葉で、だ。
「あたしだって、お父さんの仕事の関係で、友達もまともな学校生活も、そんなもの経験できてない。でもね」
父親を、憎んだことはない。あやは言う。
「お父さんのおかげで、ここまで大きくなれた。シンは違うの?家族の犠牲は、何も教えてくれなかったの?」
「アンタに何が分かるんだよ!目の前に転がった死体を見ても、同じこと言えるのかよ!」
もちろん、同じことが言えるとは思えない。
生憎家族の死を経験していないため、そんなことはこれっぽっちも考えたことはないし、綺麗事を言う気もない。
熱くなりすぎた自分を落ち着かせるように、シンの震える拳を握ろうとしたが、途中で止まる。
シンの紅い瞳は、もう怒りの色を失っていたから。
「シン…」
「ごめん、あたしも言い過ぎた。価値観は人それぞれなのにね。ゴメン、シン」
「…いいよ、オレも」
結局、憎むだけで何も出来てないや。
空を見上げると太陽がまぶしい。無駄に、それはそれは腹が立つほど。
「熱いな」
「ホントね」
ふと、地面に転がる銃を手にするシン。
手で持て余しながら。
「あの時、もし力があったら…力がないのが悔しかったんだ」
「そう」
こんなこと、話す必要もないのにな。
持て余しながら引いたトリガーは、小気味よい撃発音と共に、カートを飛ばす。
コルト45口径ピストルの、悲しいラプソディー。
その音が空気を震わせ、叩かれた頬に響くころ、シンはそのままウトウトして肩にもたれ掛かるあやの頭を受け止めた。
「…寝たり騒いだり、忙しいな」
悪態をつきながら、もう暫くここにいてやろうと決める。
何となく、理解できそうな、出来ないような、そんな空気の中で。
(つづく)


あとがき

あい、沙耶も出てきました。ようやくメンツは揃ったかな。あ、まだかなちゃんとか佐々美様とか出てきてないや。
…まぁ、いいか(ぉぃ
ってことで沙耶です。沙耶エピソードをクロスオーバーに結びつけるのは相当無茶があったので、時系列を若干崩しています。
本来の沙耶エンドがある種のバッドエンド的ハッピーエンドなので、繋げるのはやっぱり難しいや。

・イメージの中では、あやは最近まで昏睡状態でした(某Kanonのたいやきうぐぅみたいなイメージで)。そして理樹たちが
 起こした奇跡の中でタイムマシンで過去に戻り、そして過去の修正(落石事故で死ぬという結末)をし、目覚めています。

・リトルバスターズの面々が入院していたころ、彼女も長い昏睡から醒め、そしてリハビリしていました。

・苗字は色々考えたのですが(思わず上戸の反対で下戸にしよう!とか思ったけど『げこ』と読むじゃないか!と却下)。
 仮に下戸になっていたら「げげごぼおぇっ」が説明できたかもしれません。

・(オリジナル設定)もう旅に疲れた父親が日本に暫く滞在する、という設定です。どうやら町内にある相当大きな病院の
 医師として採用されているようです。少なくともそういう設定。じゃないと全寮制の学園に転入し、学費を払うだけの能力が…。
 ってなんと言うネガティブ設定だ!

・(オリジナル設定)作中の『あや』としての描き方では、小さい頃しか描かれておらず、その間の学歴とかは見落としているだけかも
 しれませんがあまり触れられていなかったように思えたので、とりあえず天然ボケな部分は沙耶から引き継ぎながらも、
 頭は大学生レベルくらい持たせています(相坂版あやちゃんのみ)。だから途中編入も楽勝です。書類は偽そuボドドドゥドオー

・(オリジナル設定)そんなこんなで、そのうち唯湖様とシンを巡ってクイズバトルとかさせたら面白そう。

・(オリジナル設定)ちなみに、このために少しプロローグを修正しています。行き当たりばったりでごめんなさい。


相当オリジナル設定多いけど、結局二時創作は原作の筋をたどりながらぶっ壊していくところに醍醐味があるのSA!
ではでは、相坂でした。

※ちなみに幼なじみ情報。ダミーカートモデルのモデルガンは火薬の爆発音はほとんどしないそうです。
 基本的にはダミーカートを飛ばして遊ぶだけの単純なおもちゃ。

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