木漏れ日の中でまるで止まったかのような世界。
このぬくもり、この居心地のよさ。
これが、居場所なのだろうか。居場所が欲しいのだろうか。
…ちょっと、疲れてるのかな。今までの、日々に。


第7話『信じること -I believe you,and I hold your hand-』

 「ん…」
木漏れ日の中、目を覚ますと、既に放課後の喧騒が静かな場所まで響くくらいの時間になっていた。
全寮制の学校だ、部活にいそしむもの、寮に帰るもの、外出するもの。十人十色の放課後がそこにはある。
「…あや?」
さっきまで肩を貸してやっていたあやがいなくなっていることに気付き、ハッとする。
…男ともあろうものが、女に肩を貸して、しかもその女の横で無防備に寝たことがシンにとって許せなかったらしい。
「…オレのバカ」
と、手に何かが触れる。
「手紙?」
モデルガンを文鎮にしてベンチに置かれている手紙。手紙といっても適当な紙に何かを書いただけの、
言うなればただの置手紙だ。
「…何が書いてあるんだろ」
気にならずにはいられない。とりあえず手紙をとってみる。

『ありがとう。スカートもパンツもいい感じに乾いたので、ジャージかなんか着てから上手くごまかすことにする。
いろいろ話せて楽しかった。たぶん、こんなに充実した時間は、転入して初めてかも。
あたしもたまにここに来るから、シンも遊びに来てよね。来ないと探し出して…』

 何をする気だろう。相変わらず物騒だ。
と、手紙の一番下の追伸に気付いて読んでみる。

『P.S.ゴメンね、無神経なこと聞いちゃって。
 頬、痛かったでしょ。それについては謝らないけどさ』

 無神経なこと?
そこで、家族の話と、叩かれたことを思い出す。
「あぁ…」
叩かれたんだったな、とすっかり冷たくなった手で叩かれた頬を撫でてみる。
叩かれたのは、これまで一度だけだ。
仕事ばかりで家庭を顧みない父親。そして兼業主婦で忙しく働きながら育児をする母親。
ある日、シンは母親に聞いた。お父さんは、本当にぼくが可愛いの?ぼくが大切なの?と。
その時、母親に頬を叩かれた。
直前に、近所のおばさんが噂話をしているのを耳にした。
『飛鳥さんとこの旦那さん、また奥さん以外の女に送ってもらってたわよ』
『あぁ、あの派手なスポーツカーの女でしょ?』
『イヤね〜。ヤクザの女か何かじゃなきゃいいけど』
『ありえるわよね、弁護士さんなら、いろんなところにパイプがあるでしょうし』
そのときのシンはまだ幼くて、その意味がまったく分からなかった。
ただ少なくとも、幼いからこそ気付いていた。父親は別のところを向いていた、と。
その愛情は、ひょっとして自分ではなく他の誰かに向けられてはいないだろうか。
そして母に問うた。その結末の平手だった。
今だから分かる。きっと母は父の浮気に、そしてその背後関係にもある程度気付いていたのでは?と。
「…」
汚い話に巻き込まれ、泣くのはいつも子どもだ。
当時はまだ妹も幼稚園に入ったばかり。シンも小学生になったばかりのころだ。
そんな可愛い盛りに家を開けていたのは、きっと仕事だけじゃなかったのだろう。
「…」
虫唾が走る、と手紙を無理矢理ポケットに突っ込むと、シンは木漏れ日のゆりかごを後にした。
鋭い日差しが降り注ぐ、ゆりかごの外へと。


 「おや、そこに見えるはシン君ではないか」
裏山に続く道の広場、そこからの帰り道に、聞きなれた声が背後からかかる。
…来ヶ谷だ。
「…どこだ?」
声はするが姿は見えない。幻聴のような声は続く。
「はっはっは。まぁ見つけられたらご褒美におっぱいを触らせてあげよう」
「余計いらない!」
そして適当に石でも投げてやろうかと足元を探すと。いい具合の茂みに人影。
「おや、見つかってしまったか。まぁ、これは私なりの前向きに生きろという暗示だ」
「相変わらずワケが分かんないな…」
妙な人間に出くわす日だ、とため息をつきながらその場を去ろうとする。が。
「どこへ行く、シン君。私から逃げられると思うな」
「…」
さっきまで茂みにいた来ヶ谷が目の前に移動している。
「…瞬間移動かよ」
「なぁに、私の脚力なら他愛もないことさ」
「…」
思いつき、横にダッシュ。
が来ヶ谷は既にその先に。
また違う方向にダッシュ。
しかし何回やっても先回りされてしまう。
「…何がしたい」
「それはこっちの台詞だ。むしろ何がしやがりたいんだ、シン君。こんなピチピチエロエロなおねーさんが誘ってるんだぞ」
「ただの変態だろ」
「うむ、そうとも言うが、変態は正しくないな。むしろ倒錯だ」
「もっと悪質だっての!」
この女の相手は疲れる、と分かっていたから、さっさとここから立ち去りたい、その旨を伝えようとすると。
「まぁ、おおかた私から逃げて自室に帰りたいのだろうが、それは却下だ」
「何でだよ」
当然の疑問に、キッ、と目つきが変わる来ヶ谷。
「キミは、自分がしたことが分かっているのか?」
「したこと?」
来ヶ谷には別段何もしていない。むしろ巻き込まれてはいるが。
そんな彼に来ヶ谷は『なぜ分からないんだ?』と逆に疑問を持った顔で聞いてくる。
「本当に分からないのか?」
「さっぱり」
「…」

 開口。
「アレが来ないんだ」
「アレって何だよ」

 本気で真面目に話す気があるのだろうかいささか疑問に思っていると、冗談だ、と前置きして一言。
「下僕の葉留佳君に罵声を浴びせ、可愛い妹分の小毬君の手を思いっきり弾き飛ばして、よく平然としていられるな」
「…あぁ」
どうやら昼休みの一件を未だに根に持っているようだ。
根に持ちたいのは、こっちのほうだ、と睨み返す。
「別に怒っているわけではない。私にはそんな感情などないからな。だが」
小毬君が、元気がないんだ。
言い終わる前にシンが反撃する。
「だから何だってんだよ!オレのこと知ったような振りをして、理解せずに土足で上がりこんできてさ!」
理解とは、意外に得ることが難しいものだ。
小毬は別にシンに同情したわけじゃない。だからといってシンを止めようと手を出したわけではない。
ただ、落ち着いて欲しかった。ただ、みんなと仲良くして欲しかった。
「キミに居場所を与えたかったんだ、小毬君は。どんなに身勝手でエゴでしかないことでも、彼女はそういう人間だ」
「なら尚更オレなんて放っといてくれよ…!」
言葉は、悲痛な叫びに変わる。
絶対不可侵領域。シンにとって触れられたくない部分。そこに、確かに来ヶ谷は触れていた。
他人を認めるという行為。それこそ、シンが恐れること。
「他人を認めれば、居場所を求めることになるからな。だが、いつまでも一匹狼でどうする」
「キミはキミであって、過去のキミは過去のキミだ。私たちが知るのは、今の飛鳥 心君、キミだけだ」
だから、とりあえずまずは目の前の人間を認めろ。
来ヶ谷の言葉は、今のシンにとっては難しかった。
過去は拭い去りようのないもの。だというのに、過去は過去として割り切り、そして今を生きるシンと共存したい。
分からない。過去があっての今ではないのか?
「過去を捨てろ、とまでは言わないさ。私もそこまで傲慢ではないからね」
「だが、過去に縛られず、前に進め。今のキミに必要なのは、ただ一つ、それだけだ」
差し出される手。拒む手。
やがて足は、動き出す。現実の拒絶へと。
逃げ出すシンの背中を見送りながら、苦笑とため息。
「やれやれ、あまりに時期尚早だったかな」
空を見上げ、自嘲気味に呟く。
「今の彼に、過去からの脱却なんてまだ早いのかもな。まるで母犬に死なれた子犬みたいだ」
だがその子犬がいつか心許すようになったら。
ふと、視線を感じて、彼女がコンクリートの箱と呼ぶ校舎に向き直る。
…数名の生徒が、見つかった!という顔をして、そのまま窓から離れていった。
「…まぁ、どうせ通報だろうな。森め、まだ懲りてなかったか」
その生徒達は間違いなくシンのクラス、森が担任を務める学級の人間だった。
恐らく森に報告して、シンの居場所を奪い、結果として彼女とシンの物理的接触を完全に絶とう、というのだろう。
「まぁ、そうなればそのときは」
私や小毬君が、キミの居場所になろう。
風に乗せて囁く。我ながららしくない言葉を口にしたものだ、と笑いながら。


 孤独という名の逃げ道を走る。家族に死なれ、変わってしまった彼が久々に触れた人の優しさ。
それが認められない、信じられない。また裏切られるんじゃないだろうか、また自分のせいで誰かが…!
そう思うとパニックを起こさずにはいられない。ついにシンは立ち止まり、無意識に樹木を散々に殴打する。
「くそっ、くそっ、くそっ!」
手の甲の皮が破れ、血がにじんでも、その破壊行動をやめない。
ふと、その手が誰かによって止められる。
「誰だよっ!離せよっ!」
「そんなことをして、誰が得をするというんだ?」
混乱の絶頂にいる彼を止めたのは…謙吾だ。
「すまんな、道場に行く途中の道で自傷行為はとても見過ごせなかった。お前がどう思っていてもな」
「…」
手を振り解き、その場に背を向け歩き出す。礼も、苦情も言わず。
「飛鳥!」
「…何だよ」
何としでも止めたいのだろうか、分かってもいないくせに。
振り返り睨んだ謙吾の顔。そんなシンに謙吾は。
笑っていた。
まるで、シンの事など最初から知っているような感じで。
「神北が最近お前のことを特に気にかけているからな。何となく覚えてしまった」
「…」
また、あいつか。
小毬がいろんなところに手を回しているらしい。ここまで来るとまるで三国志か何かの計略のようだ。
あまりの幼稚で相手のことを考えない優しさに反吐が出る。結局何がしたいのか分からないでいると。
「だが、神北を責めないでやってくれ。あいつは、誰かを哀しませるための行動はしない。最後には」
相手は、無意識に笑顔になってしまう。
結果として自分が傷ついても、相手を笑顔にするその行動。
そのターゲットにされたのがどうも腑に落ちない。腹立たしくなって反論する。
「オレを笑顔にして、それでアイツは何か得するのかよ!奪われたものは帰ってこないのに!」
オレだけが笑顔でも、どうしようもないのに!
少なくともシンは、誰かに幸せにしてもらおうとも思っていないし、誰かがそれで傷つくことも願っていない。
自分のせいで、誰かが泣いたり、傷つくのは見たくないし、もうたくさんだ。
「小毬にはウザいからやめろ、って伝えてくれ。オレは今までのままでいい。今のままがいい」
「飛鳥っ!」
そこを辞して、どこかへと消えようとする。もちろん、行く当てなどない。
だから、謙吾も食い下がる。
「お前が一人のままのほうが、よほど神北が傷つくぞ!」
「あぁもう!いい加減ウザいよアンタも!誰がいつオレが寂しいって言った!?別に願ってもいないのにさ!」
「飛鳥、お前」
別に接点なんてない、こんな仲良しグループには。
ただ筋肉バカと戦い、小毬を助けただけなのに、ここまで懇意にしてもらう義理はない。
だというのに、コイツらは。

 「そうだね、誰も望んでいないかもしれない。だけど、それだけの価値はあるんだよ、君には」
「っ!」
背後にそれまでなかった気を感じて振り返ると。
「シン君、答え見つかった?」
「…」
理樹と、そして。
「悪い、話はある程度聞かせてもらった」
恭介だ。
「なんだよ、三人がかりでオレを倒す気か?いいぜ、かかってこいよ」
身構えるが、恭介は動じない。冷静な笑みをこぼすだけだ。
気色悪くて、殴りたくなる。
「殴るなら殴ればいい。俺は生憎慣れていてな。妹や真人、謙吾もどっちかというとそんなタイプだったからな」
年上なのに全然敬われていないあたり、俺らしいと言ったら俺らしいな。まるで過去を懐かしむように言う恭介。
シンはあっけに取られ、次にはまた身構える。
「何だよ、アンタたちはっ!」
「そう警戒しなくていいよ。僕たちは」
単純に、飛鳥心という人間と話がしたいだけなんだ。
理樹が手を差し伸べる。何回目だろう、こんな風に救いと同情の手を差し出されるのは。
そして何回目だろう、それを払いのけるのは。
「っ触るなよ!」
「っ」
手を払いのけても、目の前の少年は、何度も何度も、手を差し出してくる。
まるで、お菓子をねだる幼子のように。
その『幼子』は、シンが手を取るまで諦めないようだ。
「一緒に行こう?君の居場所に」
「居場所なんかない!いらないさ!そんなものなくても、オレは!」
誰よりも強い!
5回目の弾く手は、6回目の差し出す手につながる。
見かねて、横の恭介も理樹の手首を掴み…。
「これなら、弾かれてもまた差し出す手間が省けるだろ?」
「恭介」
文字通り理樹の『手助け』をしていた。
「シン、俺は別にお前がどうなろうと構わない。だけどよ」
「僕たちは、こうして、一人、また一人と輪を広げていったんだ」
誰もが笑って過ごせる輪を。
誰もが幸せになれる輪を。
謙吾も理樹の手首に手を重ねる。
「一緒に来い、飛鳥。お前はもう独りじゃない」
「…」
「なんだよ、アンタたちは何なんだ!」
「僕たちかい?僕たちは」


 「悪を成敗する正義の味方、人呼んで、リトルバスターズだよ」
だったっけ?といつの間にかさらりとフェイドインしてきた小毬が半分振り返りながら笑顔で理樹に問う。
「ナイスタイミングだね、小毬さん。うん、間違いない」
「美味しいところは小毬か。まぁいいや、こうなったのも」
小毬が望んだからだ。
そして、差し出される小毬の小さな手。もう、弾くだけの元気も残っていない。
「アンタ…」
「シンくん、一緒に戦おう?あの日、何も出来なかった、自分自身と」
「っ!!!」
憎悪の炎が心の中で燃え始める。
「アンタにっ、何がっ!」
「分かるよ!大切な人が死んでしまう哀しみ、わたしにも」
「僕にも、分かるよ」
「何だよ!そう言って同情を誘おうってのかよ!」
押し問答。しかし、誰も屈するものはいない。
「同情を誘っているのはお前自身じゃないか?シン。そうやって自分ばかりが苦しみ、傷ついていると見せているだけさ」
恭介は冷静に、シンの矛盾を指摘する。本当に傷ついているのは一人じゃないんだ、と。
「僕は、小さい頃両親を亡くした。だから分かるよ。恭介たちがいなかったら、今の僕はここにはいない」
「お兄ちゃんを、亡くしてるの。だから、分かるよ。何かを失う苦しみは」
「ここの生徒は大抵、望んでここにいるか、もしくは理樹みたいに、身寄りのない人間だ」
知ろうとしなかっただけで、誰もが誰もにそれぞれの存在意義と苦しんでいる理由があった。
だから、シンを助けてやりたい、素直にそう思ったのだろう。
差し出される手を取れば、過去の自分を否定することになる。
今まで、力だけで生きてきた、自分を。

 「もう片意地張らなくていいんだよ、シンくん。これからは」
わたしが、そばにいる。
「両親を亡くしたときは、悲しかった。だけど、強さは力が全てじゃない。大切なのは、乗り越える勇気だよ」
僕らが、連れて行くよ。
確かな優しさと温かさに導かれ、シンはついにその手を取った。小毬の、笑顔の右手を。
「ようこそ、リトルバスターズへ!」
「フッ。恭介、俺は行くぞ」
「あぁ。部活頑張れよ」
「…」
すべての顛末を見届けた謙吾がそこを去ると同時に、シンは泣き出した。
今まで溜め込んでいた全てを、吐き出すように。
「っくぅっ…」
「よしよしっ。これからは、ずーっと一緒だよ?みんな、ね」
身体の割に大きな小毬の胸の中で、シンは気が済むまで泣いた。
格好悪いとは思わなかった。むしろ、泣くだけ泣いたおかげで、何かを見つけられた、そんな気がして。


 「そして、シン君も加入か。やれやれ」
私にも出来なかったことを簡単に成し遂げる当たり、小毬君と理樹君は度し難いな。
部室で先に待っていた連中が、目を充血させたシンを伴った理樹、小毬、恭介に一斉に注目。
そして来ヶ谷が第一声、皮肉なのか単純に嬉しいのか分からないがそう発言した。
「…飛鳥×神北、清純派でアリ、です」
「何のことだかさっぱりだけど、発行禁止だよ?西園さん?」
「…イケズですね、直枝さん」
そんな受け答えをする理樹と美魚をよそに、さっそく居辛そうなシンに、近寄る影。
「猫缶シン、モンペチよこせ」
「…」
鈴だった。
相変わらず名前を間違う、というより覚えてくれていない鈴に食って掛かろうとすると。
「鈴、シンはこれからお前の仲間の一人だ。モンペチよりもいいものをお前に教えてくれるはずだぞ」
「なにぃ!モンペチより美味い猫缶があるのか。それは大変だ。くちゃくちゃ大変だ」
「いやだからな」
恭介が取り成すも、意味なし。
ため息交じりに窓辺に向かうとき、来ヶ谷が語りかける。
「私では、心を開けなかったか?」
「…違うよ」
本当は、誰でも良かったのかもしれない。心を開くきっかけは。
それが小毬だっただけだ。
だけど確実に言えることがあって、それは。
「お前が怖かっただけだ」
「心外だぞソレは」
「ふんっ、妥当だろ」
そこで、腰につけているダンプポーチの中の違和感に今更気付く。
そう言えば、この中には…。


 『答え、今じゃなくていいんだ。気が向いたらでいい、そのボールを持ってきて』
いつか、理樹が投げてくれたボールが、まだ入っている。
さっさと返そうか、背中に思いっきりぶつけてやろうかと考えていたが、そのときは実行せず、結局
使わないまま終わっていた。そしてもう、これは意味を成さないから。
「コンビニ」
「えっ?コンビニって僕のぶふぅ」
急に投げてやったものだから顔面に命中してしまった。思いっきり鼻にクリーンヒット。
「り、理樹ぃぃっ!」
近くにいた恭介が駆け寄る。
「理樹、大丈夫か?」
「きょ…すけ、僕、もうダメかも…」
「しっかりしろ!気を確かにするんだ!」
「…」
何だこの『自分の死期は自分が良く知ってるんだよ』的オーラは。
もう2、3発くれてやる必要があるのだろうか?と近くにボールがないか探す。
その間にも、棗×直枝の寸劇は振興していた。
「もし…願いが叶うなら…」
「あぁ、俺に出来ることなら何でもしてやるぞ!だから死ぬな理樹!」
「うぅ…僕もシン君みたいに小毬さんのおっぱいに抱かれて号泣ぐはぁっ!」
続かない、言葉。
シンが近くにあったボールを適当に投げて妨害したら、それが男のバットとボールにクリーンヒット。
イチローのレーザービームばりのスピードと破壊力。地球滅亡はしなかったようだが。
「り、理樹ぃぃぃぃぃっ!」
「ふぇぇ!理樹くんっ!」
寝転んだまま死んでいる理樹を検死(仮)する来ヶ谷。
「…ふむ。しかもこれ硬球だぞ」
さすが元野球部部室。タマにはどうやら困らないらしい。
「わ、悪いのはそっちだろ!」
「ふむ。コマリマックスのおっぱい温かいよサイコー!と吼えながら絶賛大号泣したんだろう?うらやましい奴め」
「っこのっ!」
恥ずかしくて来ヶ谷にボールを投げるが一瞬にして回避される。
そのボールが今度は恭介の尻に命中。ゴキュッ、という鈍い音が響き渡る。
「ふぇぇぇっ!きょ、きょーすけさーんっ!」
間近で事の顛末を見ていた小毬が、さらに隣の男の撃沈に気付き悲鳴を上げる。
その情景を見ながら、冷静に一言。美魚だ。
「…掘られた男と、掘りすぎで倒れた男…ゲイとやおいは違いますが、シチュエーション的には…アリです」
「アンタって人はぁっ!」
オレ、本当にここでやっていけるのか?
恍惚の笑みを浮かべながら倒れている理樹と、痛みのあまり七転八倒する恭介、そして混乱してあたふたと駆け回る
小毬を見ながら、早くも前途多難と察するシンだった。
(つづく)


あとがき

リグレット第7話にして、ようやくシンくんが仲間になりました。
結構無理矢理な誘導をしましたが、いつまでも居場所要らないと片意地張り続けるシンくんを書くのはアレだったんで。

さて、今後のカップリングはどうしようか考えています。
オーソドックスにこのまま小毬とくっつけてしまおうとも、当初の伏線にしたがって鈴とくっつけてしまおうとか。
…でも初期設定では。

・リフレイン編の後なので、理樹×鈴が成立している。一応二人は交際している…らしいよ?
・そんな鈴を理樹と一緒に守るシン萌え〜。

だったわけですが、冷静に考えたら理樹×鈴でもくちゃくちゃ難しいのに、シン×鈴なんてもうgdgdのあまり、
セコンドから白タオルが投げ入れられるか杏子ちゃんが『もうやめて時流っ!とっくに読者の閲覧意欲はゼロなのよ!』『HA☆NA☆SE!!!』とか
なりそうな勢いなので、多分小毬か沙耶とくっつくと思います。


…そして、これからもちろんリトバスなんで、シンにも遭遇してもらいます。
想像を絶する、過酷に。
では、時流でした。

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